第1章 ゲルトルート号

序文

 かつて広大なメダストラ海を内海とする大帝国があった。ヘメタル帝国である。王国として興り、共和制国家として繁栄し、そして帝政へと至ったかの国は、兵は強く民は豊かだった。またまつりごとにおいても、皇帝はあれども領主はなく、その皇帝とても民と元老院を疎かにすることはなかった。まさに地上の楽園、千年王国であったのだ。

 帝国は長く栄え、やがて滅びた。いや、滅びたと言っても過言ではなかった。国が2つに分かたれて1つが滅び、もう1つも異民族に広大な領土を奪われ、残ったのは僅かにペルセポリス市ただ一つ。栄華を極めた大帝国の僅かな残滓に過ぎなかった。


 だが、そこに奇跡が生まれた。一代にして帝国を再建し、メダストラ世界を平定し、現代へと繋がる世界秩序を打ち立てた稀代の英雄――処女帝イゾルテである。彼女は若くして帝位に就き、数々の偉業を成し遂げた後、養子に帝位を譲ると同時に歴史上最も過酷と言われる勅令を発して歴史から姿を消した。


 これは、敵対する者には「黄金の魔女」と怖れられ、信奉する者には「太陽の姫」と呼ばれた彼女の軌跡を辿る物語である。

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