第37話 晩さん会 その一
謁見がひとまず終了し、おれたちは宿へと戻った。
「ユウ先生、冷や冷やものでした……」「寿命が縮まりました……」
殺気を見せていたお二方がそう言ってもねえ…… ドーラさん、シータさん……
「師匠…… なにがあったのですか?」
王宮での一件をつぶさに語ると、エクレールさん、ランボ君、ミニオン、護衛の方々も皆ドン引きである。驚きを通り越してしまったのだ。
「王家に喧嘩を売るなんて…… 師匠……すごすぎます」
「さすがはお兄ちゃん、いえ、師匠!」
ん? いまなんつった? お兄ちゃんって聞こえたような気が……
「ユウ先生、ご無事で戻られて何よりです」
エクレールさん…… ええのお……
「そんな、王家から恫喝されるなんて…… わたしがぶっ飛ばしてやります!」
護衛さん、いやまて、牢屋に放り込まれるって……
「だいじょうぶだよ(たぶん)、みんな……」
「……それで、『産み分け』の話は本当なんですか? もし本当ならこの国の歴史が変わりますね。それはまさに『爆弾』ですよね……」
ああ、まあ、本当さ……
「国側にとってもにわかに信じがたいというのも、わかります。研究した人はいたらしいですが、成功したという話はありませんでしたし」
『男女の産み分け』方法が、もし本当に確立できれば、この国のいびつな男女比は劇的に改善できるはずである。
そしてその方法を、国が独占できたなら…… 巨万の富も夢ではない。
男女の人口比が偏っているとはいえ、元々この世界での出産率はそれほど悪くはない。
種を提供する男が不足しているとはいえ、出産母体の数は有り余っているのである。
ならばどうするか…… 当然のごとく『人工授精』の技術がこの世界でも発達しているし、一夫多妻は当たり前、夫婦とは名ばかりの一回だけの契約『合体』もまかり通る。
結婚できなくとも、愛人、身体だけの関係などいくらでも相手を見つけるか、高額の『種』を購入することができれば、妊娠、出産は可能なのである。
だが、やっぱり生まれてくるのは『女』ばかりなので、いつまでたってもいびつな男女比率は解消されない。
男の『種』だけを販売する闇の業者さえ存在する。裏の世界での貴重な収入源である。
そこへおれの『爆弾宣言』……影響力は計り知れないな……
「それはさておいて、せっかくの王都だ。みんなで買い物にでも行く? 晩さん会の前に」
「やった~!うれしい! ユウさんと王都で買い物~ ここへ来れて本当によかった……」
おいおい泣くなよ、いい大人が…… いや、まあミニオンはいいか……
いや~…… 王都の街中、行く先行く先で大観衆に囲まれました……
半端じゃなかったです……
それでも街中に緊急配備の警官を用意してもらったおかげで、おれたち十五人は一塊となってショッピングをしたり、繁華街の広場で例のごとく買い食い三昧やら『恋人ごっこ』である。
さすがに護衛のの方々は職務を全うされていました……
おれは両手に花です、かわりばんこで…… ランボ君はおれの後ろに隠れておとなしくしてたけどね。
既に王都でもおれのブロマイドは販売されていて、なんでも入手するのはひと月先まで待たなければならないという、売り上げ記録を更新中だそうだ。
ちょっと、おれ預金残高確認してこなきゃ……
「早くいきましょう!ユウ先生! 次はあそこへ!」
ちょ、待って……
さらには王都では、カルム学園の来季の『学園案内パンフレット』がプレミアムがついて高額取引の対象になっているらしい。
無料配布してるやつなんだけどね……
まあ、部数は人口比で考えればそれほど多く発行しているわけじゃないから無理もないといえばやむなしである。
「あれが『ユウ様』……」
「そばにいるあの女たちは誰?ちょっと、あたしと代わりなさい!」
「後ろにいる少年もかわいいんじゃない?」
「『ユウ先生』…… 写真よりもずっとずっとかっこいい……」
「わたしも手をつないでほしい、腕を組んで歩けたら……もう、死んじゃう……」
ユウ先生の上をいく『ユウ様』である。
これ以上繁華街にいると、王都の交通も何もかもがパンクしそうだと、いつの間にか近寄ってきた侍従長にお願いされて、おれたちは宿へといったん戻った。
あんまり大した収穫はなかったんだけど……
おれは、交通整理に汗水たらしていた『ミニスカポリス』のお姉さん、あなたの『美脚』、おっと、お姿は忘れませんぜ!
あ~、写真…… 撮りそこねた……orz
では、王宮晩さん会に出発しますか! いざ!狼の巣へ!
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