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それから僕は不意に、……とても、……とても強烈な眠気を感じるようになった。人の意思では到底抵抗することができないような強烈な眠気だ。それはまるで、ずっと僕の中に溜まっていた眠気が、ダムの水のように一気に放出されたかのような、そんな強い眠気だった。
僕は、その眠気に対抗しようとした。……しかし、それは儚い抵抗だった。
僕は冷たい雪の降る枯れた柳の木のしたで、猫になった不思議な夢の世界の中で、……もう一度、……深い、……深い眠りについた。
すると、世界が暗転し、僕はとても大きな、暗く、そして深い穴の中に、一瞬のうちに落ちていった。僕は、もしかしたらここで自分の意識がなくなってしまうのではないかと思った。この夢の中で僕の意識は暗い闇の中に溶けてなくなってしまうのではないかと直感したのだ。
それくらいに闇は深く、広大で、そしてとても冷たかった。……でも、それも仕方のないことだと僕は思った。本当はもっと前に、きっと、あのとき、『瞳に見つけてもらわなければ、あの冷たい真っ暗な廊下の上で僕の命は終わっていた』はずなんだから……。
そう考えると、不思議と悪い気分はしなかった。もちろん、それなりに恐怖はあった。でも、どこか誇らしい気持ちもあった。それはきっと『瞳のおかげ』だ。僕の命は瞳によって救われて、……しかも、……それだけではなくて、僕は瞳に『命の意味』を与えてもらった。そのことに僕はこの瞬間に、始めて気がついた。きっと、『僕の命はこの夜のため』にあったのだと僕は思った。
その思いが(……もしかしたらそんな僕の思いは、ただのひとりよがりな勘違いかもしれないけれど……)、その『小さな誇り』が、僕に『勇気』を与えてくれた。それは嘘でも強がりでもなくて、僕のまぎれもない本心だった。
だから僕は、それでいいと思った。
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