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 僕は瞳のベットから床の上に飛び降りた。

 そしていなくなった黒猫のあとを追って瞳の病室から真っ暗な、あの氷で作られているかのように冷たい冬の廊下の上に、移動した。

 僕が廊下に出ると、瞳の病室のドアは勝手に閉じた。

 それは、まるで目に見えない透明な人間がそこに立っていて、ドアを閉められない僕の代わりにドアを閉めてくれたような風景だった。

 僕は一度、外の世界の冷たさにその体をぶるっと震わせた。


 僕の世界は真っ暗になった。

 そんな真っ暗な闇の中に、ぼんやりと光る二つの緑色の瞳が浮かんでいた。

 やはり黒猫はそこにいた。

 それは僕の道案内をするためだった。

 冷たい廊下に出てきた僕を見て、黒猫は移動を開始したようだった。ぼんやりと光る二つの緑の瞳は見えなくなった。

 僕は真っ暗な冷たい廊下の上を、一人で、黒猫のあとを追って移動を開始した。

 ……びゅー、というとても冷たい風が吹いた。

 その風の冷たさに僕はその体をぶるぶると震わせた。

 僕は懸命になって四本の足を使って、冷たい廊下の上を歩き続けた。

 一人で歩く真夜中の病院の廊下は、瞳と一緒に真夜中のお散歩をしていたときとは比べ物にならないくらいに、……寒くて、……辛くて、とても厳しいものだった。


 黒猫は僕の予想通りに、休憩所のところにある階段を下に向かって降りて行った。

 僕も同じように階段を降りて病院の一階に移動した。

 一階にたどり着くと、今までよりも強くて、今までよりも冷たい冬の風が僕の周囲を突然、……びゅー、という音を立てて吹き抜けていった。

 それもそのはずで、よく見ると、『以前は固く閉じられていた病院の入り口の扉が片方だけ開きっぱなし』になっていた。

 そこから外の風と、あと外に降る白い雪が少し病院の玄関のところに入り込んでいた。

 黒猫はそんな病院の玄関のところにいた。

 そこからじっと、僕を見ていた。

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