　……なんだか、まだちょっと眠たいね。

「……くしゅん！」と、その闇の中で瞳がくしゃみをした。大きなくしゃみだ。僕はその音につられて上を向いてみたのだけど、僕の目は星の光に慣れてしまっていたようで、その闇の中で瞳の顔をはっきりと見ることはできなかった。

　その病室までの帰り道、瞳はずっと寒そうに体を震わせていた。休憩所でじっとしていたことがいけなかったのか、どうやら瞳は今日も随分と体を冷やしてしまったようだった。僕が「にゃー」と小さな声で鳴いても、そのときから瞳はにっこりと笑うだけで、言葉を話したりはしなかった。

　瞳はいつもよりもさらにゆっくりとした足取りで病室まで戻っていった。病室の中に入ると、瞳の顔が真っ赤に火照っていることに僕は気がついた。もともと真っ白な顔をしているせいか、赤みがかった瞳の顔はいつもよりも正気に満ちているように見えた。実際に今の瞳の顔はロウソクでも雪でもなくて、きちんとした、『生きている人間の顔』に見えた。

　瞳は着ていた小さな子供用のコートと厚手のマフラーと手袋を脱ぐと、それらを壁の出っ張りにかけてから、とても小さな声で、「おやすみ、猫ちゃん」と言って、いつものようにベットの中に潜り込んで眠ってしまった。僕は少しだけ間をおいてから、病室の丸椅子とテーブルを利用して、瞳のベットに飛び乗ると、それから瞳の胸の上に移動して、そこに座った。