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「瞳ちゃん、起きて」

 女性の声がして、瞳の体がぴくりと反応した。瞳は体を起こし、僕も久しぶりに闇の中から抜け出した。「なんだ。姿が見えないから、いなくなったのかと思ったがそこにいたのか」大麦先生は毛布の中から現れた僕を見て嫌そうな顔をした。僕はそんな大麦先生を無視して柱時計を見た。針は六の数字を指していた。

「おはようございます、大麦先生」

「おはよう、瞳ちゃん」

「おはようございます、秋子さん」

「うん。おはよう、瞳ちゃん」

 そんな挨拶を交わしたあとで、瞳の本日二回目の検査が始まった。検査自体はいつもと同じ簡単なものだったが、今回の検査はいつもよりも随分と時間をかけて行われ、しかも同じ検査を数回繰り返して、その正確な数値が複数にわたって、クリップボードに挟まれた紙に記入されていった。検査が長引いたせいなのか、それとも体調があまり良くないのか、検査の間、瞳はひどく眠そうな顔をしていた。

 検査が終わると大麦先生は瞳に今朝と同じ量の薬を飲むように言った。瞳は大麦先生に「わかりました」と返事をして、大麦先生と秋子さんは笑顔で病室を出て行った。

 大麦先生と秋子さんが出て行ったあとも瞳はどこか眠そうにしていた。言葉もしゃべらずに、なにもない空間をただぼんやりと眺め続けていた。しばらくして瞳と僕はまた二人でベットの中に潜り込んだ。


 とんとん、と扉をノックする音が聞こえた。がらっという音がして扉が開いて、そこからトレイを持った看護婦さんが一人病室の中に入ってきた。その看護婦さんは冬子さんだった。

 冬子さんは夕食をトレイの上に乗せていた。献立はほとんど昨日と同じものだったけど、今日のフルーツのお皿は輪切りにしたバナナだった。

 瞳は僕と一緒に夕食を食べ、特別なお薬を飲み、歯を磨いて、ベットの中でまた深い眠りについた。瞳はこのときも僕をベットの中に呼んだ。僕はまた瞳のベットの中に潜り込んだ。

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