第73話 シスコン弟の信条

*雄太視点です


俺は望まれて生まれて来なかった。

父は姉一人で十分だったらしく、俺を生むことを反対していた。

しかし母は生みたいと父の反対を押しきり、俺はこの世に生を受けた。

だが、それがきっかけで両親は離婚した。

それから俺と姉は母一人で育てられた。


俺がそれを知ったのは小学3年生のときだった。

自分の存在が姉も母も不幸にしている。

そう気付いてしまい、生きる理由を見出だせなくなった。

毎日一切の気力はなく、やらなければいけないことをやるだけの脱け殻のようになった。


そんな冷めきった俺の心を暖め、溶かしてくれたのは姉だった。

毎日俺に付き添い、たくさん話しかけ、ちょっとしたことで誉めてくれた。

相談すれば真摯に向き合い、一緒に対処方法を考えてくれた。

悪夢を見たときは一緒に寝てくれた。

姉が脱け殻の俺を人間に戻してくれた。


だから俺は姉のために生きると決めた。

将来何かあったときに養ってあげれるように、全力で机にかじりついて勉強した。

姉を守れるように護身術も学び始めた。

まぁ俺は骨が弱いので向いているわけではないがやめるつもりはなかった。

そして美少女の姉の隣にいても相応しい男になるためにオシャレに手を出した。

当時は陰気臭かった俺も多少は姉と同じ血を引いているだけあり、大分よくなったと思う。

告白されるようになったが勿論誰一人とも付き合っていない。

俺は姉のためになることならなんでもした。


そしてある日の夜、珍しく姉が俺の部屋に来た。

いつもは俺が姉の部屋に行くので少し新鮮だ。

姉は俺に相談があるようだった。

姉からの相談なんて初めてなので、少し緊張しながら聞いた。


要約すると転校してきた同級生のサッカー部員に助けられ、好きになってしまったらしい。

確かに姉を助けたことは評価するが、それはたまたまかもしれない。

俺の最優先は姉の幸せであり、それが保証できない男に姉を渡すつもりはない。

俺はその男と会って見定めることを決めた。


そしてその機会はすぐに訪れることになる。

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