第56話 悔しい嬉しい
ベンチに座って一緒に泣いて笑った二人。その姿はまるで小学生の頃の記憶を重ねたようでもあった。
二人の距離感は傍目から見れば恋人同士そのものだが、本人達からすれば昔の距離と同義であり動揺などない。
晋也は出来たばかりの義妹である夏帆は美少女でもあり、まだ兄妹と言っても女子として見てしまいがちである。
しかし菜月は四天王の最上位と呼ばれることもある美少女なのだが、昔の距離感が抜けずに女子でなく家族のように見ている。
そしてそのことに菜月は実は気が付いていた。
あの頃は兄である悠斗のように慕っていたが、今では立派な一人の女子高生である。
当然恋心も理解している。
そして菜月の初恋の相手は晋也であり、それは決して変わることが無かった。
病気のときも毎日思い出していた。
そんな彼に会って嬉しくないはずがない。
感情を隠しながら菜月は全力で甘えていた。
具体的には晋也とピッタリくっついて座り、頭を晋也の肩に載せると同時に腕を抱いていた。
さっき抱き付いたときは胸に動揺していた晋也だが、今では特に気にすらしていないようだ。
私を妹としか見ていない事実に少し腹がたつ。
菜月は晋也に見えないところで頬を膨らませていた。
「そういや菜月、なんでここにいたんだ?」
「体育の補習……」
「それ休日にやるもんなのか?」
「平日の放課後だったけど、サボり続けたらこうなった」
「おい」
晋也に軽くチョップされるが、それが温かく心地よい。
二人からは付き合い始めたカップルのような雰囲気が出ていた。
途中その前を通過した運動部の生徒たちは皆、砂糖を吐いていたらしいとだけ言っておく。
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