憐愛

@submissive_takashi73

第1話

私の好きな彼は、光透かすと溶けて見えなくなってしまうような、そんな存在の希薄な人間だった。


誰かと話をしているところを見たことがない。休み時間になると、いつも静かに本を取り出して、1人で読んでいた。


そんな彼のことを、私は四月からずっと気にしていた。授業中、ふと顔をそちらに向けることが増えた。彼はいつも変わらない。じっと黒板の方を見て、目を細めて真剣に話を聞いていた。


あるとき。何がきっかけかはわからない。

とある男子生徒のグループに、彼が目をつけられるようになった。


最初は大したことじゃなかった。すれ違うときにわざと肩をぶつけたり、後ろ指をさして笑ったり、そんなことだった。


それが日に日にエスカレートしていった。

あるときは、彼の机の中の教科書がビリビリに破かれていた。

またあるときは彼の弁当がゴミ箱に捨てられていた。


そんな彼を、誰も気にも留めなかった。

彼はそんなときにいつも、困ったように、少し眉を寄せるのだった。


私は心配した。

彼のされること。彼の気持ち。

ズタズタな彼の心を思うと、悲しさと憐憫が胸いっぱいに広がるのだった。


助けてあげたい。


頭の中では、私は彼にとっての1番の存在だった。

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