中空メモリイ
よふか
プロローグ
タイトル『君』
夏の景色にぽつんと一人の少女が立っている、そんな絵だ。
「ほんとにこれで完成でいいのかい?」
「はい」
その絵は、本当に良く描けていた。群青色の空も、もくもくと広がる雲たちも、凛々しく咲いている沢山の向日葵も。
でも、ひとつだけ違和感があった。
真ん中に立つ少女だけ、鉛筆の線のみで縁取られ、紙本来の色をはなっていた。
無色だった。
透明、だった。
「この少女に色を塗らないのは、何か意味があるのかい?」
その質問に、絵の作者は少し暗い顔をした。
でも、すぐに笑みをもって、先生に答える。
「はい。この子は、無色なんです」
「透明人間、てことかい?」
「空っぽなんです。何も入ってない瓶みたいな。そんな人なんです」
次第に声を震わせながら、しかし確信をもって言う。
「本当は、色を塗りたかったんですけどね」
「…塗って、あげたかったです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます