第6話 2020年3月31日 日本銀行

5ちゃんねるでまことしやかなうわさが流れていた。

『日銀が債務超過さいむちょうかつくろう為に株を買い入れて、無理やり年度末の株価を上げるらしい』

というものだ。


日銀とは日本銀行、つまり日本の中央銀行だ。

まあ、そんなことは日本人なら誰でも知っていることだが株式市場に上場していることはあまり知られていないように思う。

俺もこの歳になるまで知らなかったくらいだ。

証券コードは8301で銀行業の分類になっている。

ただ、普通の株式会社ではないので株ではなく出資証券と言うらしい。

証券会社を通して、この出資証券を買うことはできるが株主として配当金を受け取ったり株主総会に出て経営に参画できるわけではないので一般人が買うことはまずありえないが。


債務超過の話に戻ろう。

去る3月10日、黒田日銀総裁が国会で日銀の購入している株価指数連動型上場投資信託(ETF)の損益分岐点そんえきぶんきてんが19,000円程度と発言したのだ。

損益分岐点とは投資信託を買った値段と現在の値段の差がちょうど0円になるポイントだ。

つまり、日経平均株価が19,000円を下回ると日本銀行が債務超過、平たく言うと赤字におちいる可能性があるということだ。

経済の専門家によって日銀が債務超過になっても問題ないという奴もいるが、そうではないという専門家もいる。

議論が分かれている時点で大問題だろう。

本来、国の中央銀行が破綻はたんするような噂が立つこと自体おかしいのだ。

そういったこともあり、この噂はかなりの信憑性しんぴょうせいをもって流布るふされていた。

そして、3月31日を超えれば日銀は当面株式市場に介入かいにゅうできないだろう、とも噂されていた。

それはそうだろう。

株が上がり続ける株式市場なんてあり得ないのだから。


そういった噂を基に俺は作戦を立てた。

日経平均先物が19,000円を超えたら機械的に売り浴びせるのだ。

もちろん、日銀の買い圧力が想定以上にあり一気に20,000円を超えてくるリスクも少なからずあるので100円刻みに少しずつ、だが。


そして、俺はこの日の株式市場で4枚のぎょくを建てた。

19,000円、19,100円、19,200円、19,300円で各1枚ずつだ。

そして15時に株式市場が閉まった瞬間から先物が急落するのを見て、俺は勝利を確信した。

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