第121話〜決断の時〜


 ニャルザル軍の戦闘機から、白く光る球が発射された。

 恐るべき兵器、〝ニャークリアー・ボム〟だ。


 もしこれが爆発すると、ここら一帯は一瞬で焼け野原になってしまう。

 それだけじゃねえ。何年も何十年も、放射能とやらが残留し、ボクらの住むチキューが汚染され続ける事になるんだ——!



「ヤメヨ、愚カナル民ヨ」



 ガイアドラゴンの声が聞こえたと思ったら、突如、超星機神グランガイアは分解を始め、スター・マジンガ・改はガイアドラゴンの背中から降ろされてしまった。

 レオパルムキャノンも、ガイアドラゴンから切り離された。



「ガイアドラゴン‼︎」



 その後ガイアドラゴンは単身、ニャークリアー・ボムに突っ込んで行った——!


 辺りが白い閃光に包まれる——。



「ガイアドラゴンーーーーッ‼︎」


「みんな、目を瞑れ! 耳を塞げ‼︎ ……マジンガ! 僕たちを守ってくれぇぇぇー‼︎」



 ニャークリアー・ボムが炸裂する——‼︎

 コクピットにいる13匹全員、丸くなって床に伏せた。



「火ヲ以ッテ、火ヲ制シテハナラヌ。愚カ者……!」



 ガイアドラゴンの声。助かった——のか?

 ボクは恐る恐る体を起こし、前方を見た。



「……おいみんな! ノアが、助けてくれたみてえだ!」



 何と、最初に戦った厄災竜カラミティドラゴン——蒼天竜ノアが飛来して虹色のバリアを展開し、スター・マジンガ・改、レオパルムキャノン、ガイアドラゴン、そして狂獣グレを守ってくれたようだ。

 周りを見ても、以前のままの景色だ。恐らくニャークリアー・ボムのエネルギーも、ノアの虹色のバリアがかき消してくれたのだろう。



「感謝スル、我ガ同胞、ノアヨ……! 我ニ力ガ漲ッテクル……!」



 蒼天竜ノアが展開した虹色のエネルギーが、ガイアドラゴンに流れ込んで行く。ガイアドラゴンの体躯が、太陽のように輝き始めた。



「サア太陽ノ子タチヨ。モウ一度我ト合体シ、ミラニ憑カレシ者ヲ止メルノダ」



 蒼天竜ノアは光を撒き散らしながら去って行き、ニャルザル軍の戦闘機も撤退して行った。



「……ありがとう、蒼天竜ノア。よし! 超神合体‼︎ 今度こそ、グレを止めるぞ!」



 再び、スター・マジンガ・改はガイアドラゴンの背中に入っていき、レオパルムキャノンも胸部に装着される。

 合体が完了すると、再び街へ向かおうとする狂獣グレに、しっかりと狙いを定めた。

 パワーアップした超星機神グランガイアで、今度こそ悪神ミラに一矢報いてやるのだ。ボクらは再び、最大最強の技を叫ぶ。



「グランガイア・メテオスウォーム‼︎」


「グレェェェーーーーッ‼︎」



 ライムさんが涙ながらに叫ぶ。

 虹色の閃光と白煙に包まれたグレは、地響きを上げて地面に倒れ、動きを止めた。



「……やはり、グレだけがダメージを受けている。ミラ本体には全く効いてないようだ……」



 ソールさんは、眉をひそめながら言った。

 狂獣グレは、倒れ、悶え苦しみながらも、顔だけが笑っている……。

 程なくして、ガイアドラゴンの声が聞こえた。



「太陽ノ子孫タチヨ。太陽神ヨリ賜リシ秘技……〝パルフェ〟ヲ使ウノダ。……今シカナイゾ!」



 〝パルフェ〟——それは、最後の手段だ。

 使うと、グレさんは死んでしまう。

 ボクらも、誰かが死ぬかも知れねえんだ。


 ……だが、もうミラは太陽の神の話に聞く耳を持たない。もう、完全に狂ってしまっている。

 グランガイア・メテオスウォームも効かない。

 もはや〝パルフェ〟を使うしかなくなったんだ。



「な……何? パルフェって」


「聞いてないぞ! そんな技」



 そうだ。この事を知ってるのはソールさんと、ボクだけなんだ。時間も無い。みんな焦りと混乱で、コクピットはカオス状態だ。

 ソールさんは何とかみんなを落ち着け、〝パルフェ〟について説明した。



「……な! 使うと俺たちも死ぬってのか⁉︎」


「まだ大丈夫でしょ⁉︎ 話して分かるんなら、頑張って説得してよ!」



 〝パルフェ〟を使うと、グレさんは死ぬ——。

 勝利の代償に、親友を失う。その事を知ったライムさんは、床に手をついて考え込んでしまった。

 狂獣グレは、泡を吹き白目を剥きながら笑い続けている。

 ダメ元でソールさんは、もう一度説得を試みた。



「ミラ様! 世界のためにならぬ事はおやめ下さい! 天界へお帰りになって下さい……!」



 しかしグレさんは、変わらずに不気味な笑みを浮かべ続けるだけだった。

 狂獣グレは、少しずつ黒いオーラを纏っていく——。


 ボクはライムさんに言った。



「ライムさん、世界を救うには、パルフェを使うしかねえんだ……!」



 ライムさんは床に手をついたまま、目を瞑り、俯いたままだ。


 何を考えているのだろうか。思い出しているのだろうか、グレさんとの事を。

 ボクには親友ってのはいねえし、ライムさんの気持ちも全部は分からねえ。

 だが、身近な大切な存在を失うってのは——一生その悲しみを背負うって事だというのは分かる。


 親友を失い——ボクらも死ぬリスクを取って平和を取り戻すのか、それとも、このまま親友が狂った神に弄ばれ、世界が滅びるのをただ見ているのか。


 ——死ぬって、どんな感じなんだろうな。

 もしボクらが〝パルフェ〟を使った結果、誰かが死んじまえば、それを悲しむ奴は、必ずいるんだ。


 この瞬間に命をかけるほど、ボクは、みんなは、悔いなく生きてきただろうか? まだまだやりてえ事、やり残した事、たくさんあるんじゃねえのか。

 自分が精一杯生きる姿を見せてえ——そう思える存在の事を思うと——。

 簡単には、踏み切れねえ。あのライムさんだって、踏み切れねえんだ。


 クソ、ボクもそんな覚悟、全然出来てねえ。ほかのみんなだって、そうかも知れねえ。こんな思いのまま死んだとして、後に残る世界は、本当に幸せな世界なのかよ——!


 ……狂獣グレが目覚めてしまう。時間が無い……!



「グレは、私の夢の為なら、命を捨ててもいいと言った……」



 ライムさんは目を見開き、そう言って立ち上がった。


 時を同じくして、再び狂獣グレが起き上がる。

 黒いオーラを纏い雄叫びをあげ、笑いながらゆっくりとこっちに向かってきた。

 クソ……時間切れか‼︎



「パルフェヲ使エ‼︎」



 ガイアドラゴンの声が聞こえると同時に、ボクらは瞬時にコクピットから外の広場へと、ワープさせられてしまった。


 覚悟をしなきゃならねえ時が、来たようだ。

 ボクは頭の中の考えを必死で振り払った。

 考えるな。運命を信じろ——!



「すまなかった。この悪神から我々の故郷、地球ガイアを守ってくれ……! パルフェを使え‼︎」



 ライムさんも覚悟を決めたらしく、そう言った。

 ソールさんは、最後にライムさんに確かめる。



「本当に、いいのか?」


「グレの奴も、覚悟はしてる。ならば私もその覚悟を持ち、応えるんだ。世界のために!」



 ライムさんの目に、迷いはなかった。

 他のみんなも、迫り来るグレの姿を、しっかりと見ていた。

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