第28話〜いざ出撃‼︎ ネコ軍隊を迎え討てッ!〜

 

「たぁーだいまあー! あ、いい匂い」


「おかえり。今日は秋野菜のカレーよ。ゴマくん、ルナくんもおかえり」


「ああ、ただいま、ネズミの母ちゃん。久々にすっげえ楽しかったぜ……ん?」



 ——あれ⁉︎


 ボクは、机の上を二度見した。

 何と、机に置いてあったボクとルナのニャイフォンが、粉々にブッ壊されている。

 画面もバキバキに割られ、2つとも電源ボタンを押しても全く反応しなくなっていた。



「おい誰だ! こんな事した奴は!」



 ボクが大声を出すと、後ろからムーンさんの声が聞こえた。



「ごめんなさい、私です」


「え、ムーンさん⁉︎」


「やったのは私です。あなたたちの居場所を、〝彼ら〟に知られてはいけませんから」



 そうだった。元々ボクらは、ニャンバラの奴らのスパイだったんだ。

 ネズミ族と一緒にいる事をニャンバラの奴らに知られると、奴らに何をされるか分からねえ。そうすると、ネズミ族の奴らも、ボクらの家族も巻き込まれる……。



「そうだムーンさん。昨日の事……ネズミのガキどもにも伝えなきゃいけねえよな」



 ボクがそう言い終わろうとしたその時、ムーンさんの胸元からピピピ……ピピピ……と、音がした。

 ——ムーンさんの表情が引き締まる。



「……こちらムーン。そう、わかりました。すぐに向かいます」


「な……! どうしたんだ、ムーンさん!」


「ゴマ! ネズミの皆さんを集めてください!」



 ムーンさんにそう言われ、ボクは大慌てで9匹のネズミたちを、広間に集めた。きっとただ事じゃねえぞ、これは。



「皆さん、聞いてください。ニャンバラ軍の偵察部隊が、すでにネズミ族の街〝Chutopiaちゅーとぴあ2120にいいちにいぜろ〟に、到着しているとの事です。今から私は街に向かいます。私たちの仲間と合流し、外界からの唯一のこの世界への入り口である、結界通過トンネル〝ワームホール〟を封鎖します」


「何だって⁉︎ ムーンさん! ボクらも……」


「ゴマたちは、ここで待ってて下さい。では行って参ります」



 ムーンさんはそう言うとすぐに、玄関のドアも開けっ放しで、飛び出して行っちまった。

 大人のネズミたちはムーンさんの話を辛うじて理解したようだが、ネズミのガキ共は何が起きているのか全く分かってねえ様子だ。



「え、何⁉︎ 何があったの⁉︎」


「お父さん、私怖い……」


「大丈夫、大丈夫だよ。みんな落ち着くんだ」



 とうとう来やがったか、ニャンバラ軍……。

 一体どんな奴らなんだろうか。ネズミの街は無事で済むのだろうか。ムーンさんの仲間って、一体何者なのだろうか。まさか、ニャンバラ軍と戦ってくれるのか——?



「夕ごはんできたわよ……あら、ムーンさんは?」


「……街にニャンバラの軍隊が来ているから、それを止めに出かけたそうじゃ。とりあえず明かりを暗くして、わしらは夕ごはんにしよう」



 ネズミのじいちゃんは、ガキどもに聞こえないように声をひそめ、ネズミの母ちゃんにそう伝えた。



 ♢



 いつもとは違い、どんよりとした雰囲気の食卓だ。



「いただきまーす!」


「しーっ! みんな、今は外に出ないでね」



 ネズミの父ちゃんは声をひそめて、ガキ共にそう言った。



「え、何で?」


「詳しくは、ごはんの後で話すから」


「……何か、嫌な予感がするよぅ……」



 ……やっぱり、ちゃんと話した方がいいんじゃねえか? ガキどもは勘が鋭いんだからよ。

 そう思いながら飯を食ったが、あれだけ美味かったネズミたちの料理の味が——全くしねえ。



「……ごはんの途中だけど、私たちも街まで行くわ。母さんが心配」



 メルさんはそう言うと、飯を半分以上残したまま、すっくと立ち上がって玄関へと向かった。



「ゴマたちはいい子に待っててね〜」


「ちょ、メルさん、じゅじゅさん! 危ねえぞ!」



 メルさんに続いてじゅじゅさんも、ムーンさんを追って、家を出て行ってしまった。……じゅじゅさんは飯を皿ごと持ち出して行ったようだ。

 ネズミのガキどもは、ただごとではないその様子を見て、食事の手を止める。泣き虫のナナは涙を浮かべながら、ネズミのじいちゃんに問いかけた。



「ねえ、どうしたの? おじいちゃん、何か知ってる?」


「……言わなければいけないようじゃな」



 戦い、争いを知らねえ純粋無垢な子供が、とうとう現実を知らなきゃいけねえ時が来てしまったんだ。


 じいちゃんはひと呼吸した後、口を開く。



「地底世界のネコ族ニャンバリアンが、わしらが住むこの世界を乗っ取るために、攻めてくるんじゃ」



 ——一瞬の沈黙。

 トムが首を傾げながら聞き返す。



「……え、乗っ取るって? 僕らが住む家も、街も、横取りされるということ?」


「そうじゃ……地底に棲む悪魔のネコたちが、当たると痛い弾や斬られると痛いやいばを持って、わしらの住む街を横取りしに、やって来るんじゃ」



 じいちゃんがあからさまに怖い顔をして言うもんだから、ガキ共はみんな震え上がっちまっている。お伽話じゃなくて、マジの話なんだから。そこはもう少しマイルドに言ってやろうぜ、じいちゃんよ。



「こわい、こわいよう……お父さーん!」


「大丈夫、ここまでは襲っては来ないさ」


「ああ、ムーンさんとその仲間が、上手くやってくれるはずじゃ。信じよう」



 ——さあ、この状況だ。

 ボクがどういう決断をするか。決まってるよな。



「ルナ‼︎ ボクらも行くぞ‼︎」



 例の如くボクはルナを無理やり引っ張って、玄関に向かった。



「ちょっと、ダメだよ! 待ってなさいってムーンさん言ってたじゃ……ああもう引っ張んないでよ!」


「うるせえ! 黙ってついて来い!」



 案の定ユキとポコが、止めようとしてくる。



「ゴマ! ルナ! 待って、危ないよ!」


「ダメだよゴマー! うう、何が起きてるの? 怖いよ……!」



 だがボクはその声を無視し、ルナを連れてネズミどもの家を飛び出した。


 ムーンさん、メルさん、じゅじゅさん。

 ボクも戦う。

 待ってやがれ、ニャンバラの馬鹿野郎ども——!

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