もふもふにゃんこゴマくんの冒険記

戸田 猫丸

第1話〜小生意気なネコちゃんの、冒険の始まり〜


 ……ニャンだお前は? 不思議そうにボクのこと見やがって。


 ボクは、ただのネコだよ。名前は【ゴマ】っていうんだ。ああ、マグロが食いたいぜ。


 ニャに? 喋るネコなんて初めて見ただと? 

 逆に聞こう。お前こそ、ネコの言葉が分かるってのか? ……そうか、珍しいニンゲンも居るもんだな。


 じゃあ、ボクがちょっと不思議な世界へ行った時の話でも聞かせてやろうか。

 ネコだけが暮らす街、【ニャンバラ】へ行った時の話だ。


 ネコだけの国だぞ、ネコだけの。

 お前、ネコ好きだろ? きっとボクのことも好きなんだろ?


 ま、少し長くなるが、その辺にでも座って楽しんで聞いて行ってくれ。


 じゃあ、いくぞ——!


 ♢


「ふぁああー……」


 ボクはいつも通り、ガレージの隅にある段ボールの中で目を覚ましたんだ。今日も1番の早起きだ。

 ボクらは、ニンゲンが暮らす家のガレージってとこに棲んでるんだ。

 庭にはうっすら雪が積もり、刺すように冷てえ北風がビュウウと吹き込んでくる。


 ボクは、まだ段ボールの中で寝っこけている、弟分の【ルナ】を起こした。


「おい、起きろルナ。狩りに行くぞ」

「にゃああー……、えー、ご飯さっき食べたとこでしょ……?」


 ボクよりひと回りちっちゃくて、ボクと同じ柄の白黒ネコ、ルナ。

 寝ぼけてやがったので、ボクは1発ネコパンチをかましてやった。


「この野郎、いい加減目を覚ましやがれ!」

「ふみゃっ! 乱暴しないでよ……、兄ちゃん」

「うるせえ、いつまでも寝ぼけてやがるからだ。さっさと支度しろ」

「はいはい、わかったよもー。兄ちゃん、今日どこ行くのさ」


 ルナはとろんとした目つきのまま、尋ねてきた。


「今日はすぐ近くの公園だ。まだネズミがウロチョロしてるはずだからな」

「もう明るいから、いないと思うよ」

「お前がいつまでも寝てるせいだろうが! ……あ、【アイミ姉ちゃん】だ。ルナ、なでてもらうぞ」


 アイミ姉ちゃん。

 ボクらの飼い主みたいなモンだ。ボクらがチビの時から、ずっと世話をしてくれてる。

 多分、このガレージのある家に住んでる家族の一人っなんだろう。毎朝、いつも同じ格好でカバン持って、元気に走っていくのを見てる。


「にぃああぁ……」

「よしよし……、ゴマ、ルナ、おはよ。ふふ、可愛いなあ」


 アイミ姉ちゃんは、いつもボクの頭や背中を優しくなでてくれる。


「みゃあー」

「おいでー。よしよし」


 ルナもよくなでてもらうんだが、甘えるのが下手なんだ。緊張してるのか照れてるのか、いつもその場で固まっちまう。それじゃあアイミ姉ちゃんも撫でがいが無えってもんだ。

 ボクみてえに素直にゴロゴロその場に転がってりゃあ、可愛がってもらえるんだよ。


 さて、ひと通り撫でてもらったところで、ボクらはネズミ狩りに出発だ。


「さ、ルナ行くぞ」

「あー、待ってよー」


 ひんやりした風が、体にしみた。

 雪が少し解けて濡れたアスファルトの道を調子良く歩いていると、ボクらの姉貴分、【メル】さんが目の前に立ち塞がる。


「こーらー、ゴマ。今日は集会だからアイミ姉ちゃんとこにいなさいって言ったでしょー」

「あれ、メルさん。何でこんなとこに。もう起きてたのかよ」


 メルさん。

 さっきも言ったとおり、ボクらの姉貴的存在の三毛ネコだ。スラッとした体型の美人ネコ、といった感じだ。

 ウチのボスネコの【ムーン】さんがいつも留守にしてるせいで、メルさんがほとんどボクらの親代わりになってるんだ。なぜか、ボクばっかり怒られるんだよな。


「チッ、見つかっちまったか! あー、ついてねえ」

「全く……、先回りしといて良かった。ほら、ルナも一緒に帰るよ」


 メルさんはそう言って、ボクらを通せんぼする。仕方なくボクらは、来た道を戻る事にした。


 棲家のガレージに戻ると、他の奴らはみんな目を覚ましていた。だがもう1匹の姉貴分、【じゅじゅ】さんは、まだ段ボールの中で大あくびをしている。

 

「じゅじゅさん。やっとお目覚めかよ」

「ふみゃーあ、ゴマおはよう。そろそろゴハンだよ」


 じゅじゅさん。

 ブクブクに太った三毛ネコだ。

 メルさんとは違ってのんびり屋のマイペースな性格だ。ボクらがイタズラしたりしても怒ったりしない。

 だが、いつも寝てるか食ってるかばかりの生活で、むしろボクの方がじゅじゅさんのことを心配してるくらいだ。


「じゅじゅさん、昨日の夜中も勝手にメシ食ってただろ」

「腹が減ってはいくさは出来ぬって言うからにゃあー」

「いや、そういうことを言ってるんじゃねえよ……」


 じゅじゅさんはいつも、こんな調子だ。


 さて、メルさんに止められたせいで獲物はさっぱりれなかったから、アイミ姉ちゃんが用意してくれるカリカリが、今日の朝飯だ。たまーに、高級品のネコ缶も出てくるんだ。

 アイミ姉ちゃんは、3つの皿にカリカリをザラーっと流し込んだ。


「はあい、たくさん食べてね」


 今日は大盛りサービスだ。ここからは競争さ。みんな我先にとカリカリに飛び付く。


「んぐんぐ……」


 んー、まあまあな味だな。やっぱり高級ネコ缶の方がボクは好きだ。


 食い終わり口を拭ってから、ボクはすぐ隣で毛繕いしてる弟分の黒ネコ、【ポコ】に声をかけた。


「なーポコよぉ、いい加減お前も外遊びに行こうぜー」

「フミャッ!? ゴマ、そんな怖い顔しないでよう……」


 ポコ。

 ルナと同時期に生まれた、全身真っ黒のチビネコだ。

 コイツ、ほんっとに怖がりの意気地なしでさ。ネコのくせして動くものを怖がって、この時はまだ自分で獲物を狩ったことがなかったんだ。


「まったく、ネズミごときにいつまでビビってんだ。そんなんじゃ狩りなんか一生出来ないぞ」

「う……うるさいっ!」

「お? ニャンだ、やんのか?」


 軽くネコパンチを喰らわせようとすると、ポコはササーッと逃げて行きやがった。ほんと、情けねえ奴だ。


 仕方ねえから、隣で目を細めながら前脚を伸ばしている妹分の【ユキ】を誘う事にした。


「おいユキ、公園行くぞ」

「おー、行っちゃう? ルナとポコも誘おうよ。フミャーゴ……」

「ポコはダメだ。いつも通り段ボールに引き籠もってやがるぜ。ったく情けねえ」

「ああいう性格だからしょうがないよ。ポコが自分から行きたいって言うまでそっとしときましょ」


 ユキ。

 ニンゲンが言うにはサビ柄模様らしい。

 体型がボクよりひと回り小せえから、妹分って事にしてるが、生まれたのは同時期だ。

 体を動かすのが得意で、いつもボクとどっちが先に獲物を捕らえられるか競争してる。


 晴れた日には、メルさんの許しをもらってからボク、ルナ、ユキの3匹でよく出かけてるんだ。

 一緒に狩りをしたり、近所のニンゲンのクソガキをからかったり、ニンゲンの婆ちゃんに撫でてもらいに行ったりしてるんだよ。


 さて、いよいよ——ボクがネコだけの住む街に行く話の始まりだ。

 その日の夜、ネコの集会に出かけた時に、全ては始まったんだ——!

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