踏切の向こう側

四方山次郎

第1話

 カンカンカンと、電車が通ることを告げる警告音が鳴り響く。

 目線の先では、夕焼け色に染まる空のもと二人の友人が踏切を超えようと走っている。そのさらに奥にはすでにわたり終えた友人が一人、手を振りながら速く走れとはやし立てる。


 この音が鳴ったら渡ってはいけないという意味だよ、とずいぶん前に祖母に教えてもらっていたから、当時の僕は走ることに戸惑いがあった。そもそも、さっき17時のかねが鳴ったばかりだ。鐘が鳴ったら帰るというのも家族との約束だ。

 そんなことを考えているうちに遮断棒が降りてくる。意味するのはより強い警告。余計僕の足を重くする。友人たちはそれにもおくさず踏切の向こう側へたどり着く。一人は遮断棒を潜り抜けてまでして突破していった。

 そんななか僕はというと、ただただ友人たちの行く末をボーっと眺めているだけだった。


 行きたいという気持ちがないわけじゃない。それよりもさらに強くやめたほうがいいという気持ちが強いのだ。


 そんな僕の気持ちを知らずに早く早くと叫ぶ友人たちを見て、僕は何とかして一歩踏み出した。


 その一歩が地面につくかつかないかの瞬間、轟音ごうおんを立てて電車が僕の視界をふさいだ。







 目を開けて最初に目にしたのは見知った天井。窓から差し込む日の光が今のおおよその時間を伝えてくる。


「朝練、行かなきゃ」


 僕は重い体を動かし、一階の居間へ向かう。


 乗り越えられない踏切の夢。

 それは以前から時々見る夢でもあり、実際に経験した出来事でもあった。

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