召喚規則!強制召喚は禁止です‼

ナイム

一章 新たな世界での日常

1話 公表された異世界

 2090年初期、数十年前から突如として全世界で大規模に始まり出した謎の神隠し事件。

 最初は数人ほどで地歩のニュースで流れる程度で誰も気に留めていなかった。しかし被害は次第に広がっていき、ついには十数人規模の失踪まで発生したのだ。


 それでも最初は謎の怪奇現象として大々的に取り上げられたが、数か月後には別の国で同規模の失踪が発生、更に数週間後に、次は数日後と言ったように感覚は徐々に縮まって行き。最終的には一週間に一つの国で数十人規模で失踪者が続出した。


 さすがに全世界で同時多発的に失踪や神隠しが連続すれば噂どころではなく。全世界の人間たちも異常な事態だと理解してパニックが起き始める。

 更にこれ以上放置すれば人口は激減により、数年以内に数か国が国としての体裁を保てなくなってしまう可能性すら浮上したのだ。今は何とか無事な国々も恐怖に支配された国民によりいつ暴動が起きるか分からない程の緊急事態。


 その危機的情勢に世界各国は緊急テレビ会談を実施、今までの軋轢なども投げ捨てて1週間にもわたって話合いを続けた。



 そして会談が終わると各国首脳連名での会見が行われた。

 会談に合わせて呼ばれていた各国メディアも、緊急事態だったのは分かっていたが各国の首脳が全員現れるとは思っていなかったようで現場はざわつく。

 しかしそんな事は気にせず首脳陣の脇から何故かパーカーを目深く被った謎の人物が現れ、各国首脳を置いて真ん中に立って話し始める。


『まずは急な呼びかけにお集まりいただき、ありがとうございます。最初に自己紹介を私は【観測者ウォッチャー】のクリス・アルヴと言います』


 突然話し出した謎のパーカーの人物『クリス・アルヴ』の声は中性的で性別は分からなかったが、それ以上に話している内容が会場にいるメディアも画面の向こうの世界中の人々も理解できなかった。

 そのためメディア人達も質問しするため手を挙げようとしたが、それを遮るようにクリスは少し申し訳なさそうに話し出す。


『申し訳ないですが、質問は全て話した後に伺います。まずは何故、後ろの首脳陣ではなく私が話しているのか。それは今後の事を考えると、どこかの国が代表するのは調和を乱してしまうためだと説明します』


『そのうえで皆さまには話を聞いていただきたい。現在地球全体で起きている失踪事件・通称【神隠し】は人為的に起こされた災害に近い物です。…皆さま誰が?何の目的で?と不思議に思ったと思いますが、ここからは皆様の今までの常識にはなかったものだと理解した上でお聞きください……』


 沈痛な面持ちで消えそうな声音でそう言ったクリスだったが、周りのざわつきが収まるのを待つと説明を続けた。


『この世界の他にいくつもの別世界、つまりがあります。今回の神隠し事件は、その数多の世界が無差別に同時多発的に勇者召喚と呼ばれる儀式を行った事によるものだと判明しています』


 そのあまりに荒唐無稽な説明に現場のメディアも、画面の先で見ている世界中の人々は『は?』と首を傾げた。何人かのメディアは本人の前にもかかわらずバカにするように笑った。

 しかしクリスは気にする事なく、むしろどこか納得したように微笑んで頷く。


『そう言う反応になるのも理解できます。なので、まずは皆様が知らないだけで不思議な事はあると証明して見せましょう』


 そう言ったクリスはバサッ!と被っていたフードを外す。あらわになったクリスの顔は綺麗な白い肌、瞳は光を反射した綺麗なエメラルドグリーン、髪もとても艶やかな背中まで伸ばされた金髪。

 だがそれ以上に人々の目を引き付けたのはその耳、何故ならそこに生えていたのは普通の耳ではなく横に長く尖がったような形だったのだ。


 その耳を見た人々の頭には一つの結論が出る『エルフだ!』と、だがそんな事はありえないと自然と人々は否定してコスプレか何かだろうと考えた。

 しかしその耳はメディア達が何か話すたびに反応してピクピク動いていた。それに気が付いた人達は本物なのか?と前のめりになってテレビへと食いつくように見た。


『気が付いた人達もいると思いますが、私は皆様にエルフと呼ばれる種族です。ただ耳を見せただけではまだ信用できない人も多いでしょう。ですので、各国の首脳の方々とも話し合い決定しました。これを見ているすべての幻獣種・魔法使い・異能者に告げる隠蔽を解除せよ!もはや隠していられる状況ではなくなった。再度伝える、隠蔽を解除せよッ‼』


 クリスは先ほどまでの丁寧な口調から一転して厳しい口調で向けられるカメラに向かって叫ぶ。

 しかもその声を聞いた人々は何か不思議な感覚に襲われる、その感覚がの正体は分からなかったがすぐにそれどころでは開くなった。


 最後にクリスが叫ぶと同時に世界中のあらゆる場所で次々に不思議な事が起こり出したのだ。

 ある国の会社ではテレビを見ていた数人が立ち上がり次の瞬間にはその姿が霧のように靄に包まれて、それが晴れれば元の人間の姿はなく服装は変わらなかったが肌は黒く変化して神は白銀へと変わってい、耳はエルフのように尖ってつまり『ダークエルフ』だったのだ。

 別の国では寺の巫女が狐人に、教会ではシスターが吸血鬼、警察官が狼人、キャバ嬢達はサキュバス、格闘家は鬼人と普通の人だと思っていた人間がどんどん伝説上だけの生き物の姿へと変わって行ったのだ。


 しかも起きた変化はそれだけではなく。海の底から全長数百メートルはありそうな海龍が姿を現し、空には炎を纏った鳳凰、雷を轟かせながら走る麒麟と伝説上だけだと考えられていた生物達が次々とその姿を出現させていた。

 日本では妖怪たちが現れてお祭り騒ぎを始め、それをこれまた突然現れた陰陽師らしき人達にが別の芭蕉に移動させたりとケンケンのない混乱に見舞われた。


 その知らせが現場のメディア達の元に一斉に着信音が鳴り響き世界で起きている現状が伝えられる。

 もたらされた情報を耳にしたメディアの人間達は、先ほどまで馬鹿にした様子だったのが嘘のようにおとなしくピクリとすら動かなくなってしまう。それほどまでに今起きている現象は、彼らの常識を打ち砕いた。


 そんなメディアの様子にクリスは満足そうに笑顔を浮かべていた。


『いま皆さまの元にも連絡が来たかとは思いますが、先に言っておくと私達は元から、それこそ人類が誕生した時から存在していました。しかし見ての通り、皆さまとは見た目が違い、人間以上の力を持っているために化け物として排除されて来た。そのため我々は決めたのです、人間たちが私達を受け入れることが出来る準備が整うその時まで、人に化けてでも静かに待ち続けようと…』


 そう語るクリスの表情はどこか悲しそうな、それでいて嬉しそうなものだった。

 しかし感情を表に出したのは一瞬で、すぐに真剣な表情になると立ち上がる。


『ですが今回の事態は、人間だけでは解決は不可能と考えて我々の存在を明かす事にしました!どうかこの時代の皆様が私達の待ち焦がれた、我々を受け入れてくれる人々であることを切に願います…』


「「「「……」」」」


 そのクリスのあまりにも悲哀に満ちた表情は見ていた世界中の人々の心に深く刻まれた。目の前で見ていたメディアの人達にいたっては、先ほどまでの自分達の態度を後悔して悔いるように顔を俯かせていた。

 だが今は会見の最中のためクリスは一通り話し終わると、少し目を閉じて心を落ち着かせて目を開く。


『それではある程度の証明も出来たと思いますので、先程の【神隠し】についての話を続けさせてもらいます。まず今回の事件が異世界からの召喚であると言う説明はしましたが、今回の事件に際して正式に対策組織を成立が決定しました。その組織はたい魔術・怪異対策組織【マギルティア】の結成を発表します!』


「「「「⁉」」」」


 クリスが言ったこの発表でただでさえ混乱していた世間の人々は更に混迷を極める事になっていた。その事をクリスは理解しているがここで説明を止める訳には行かず、またゆっくりとより詳しく説明を進めていくのだ。

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