第86話 事後処理

「リーナス法務卿! その者に厳罰を!」




 帝都ガリステル。


 俺は再びこの地に戻ってきていた。


 最初にこの地に足を踏み入れたときとは正反対に、全く自由のない状態で、だが。




「ふぅむ……。リルト=リィル、君はカルム辺境伯の持つ魔道具を悪用し、またそのいくつかを破壊したとあるが……事実かね?」




 帝都に呼ばれた理由はカルム卿が起こした裁判にあった。


 カルム卿にとっても王国とのつながりに関する話はあまり積極的に掘り返したくないというところが不幸中の幸いと言える部分かもしれない。そのおかげでいま、結果的に俺はカルム卿の所持する魔道具の無断使用と、魔法人形の破壊の罪だけを追及される立場にあった。


 最悪の場合敵国に手を貸した罪に問われたことを考えるならまだ救いのある裁判だ。




「破壊は事実ですが、悪用までは……」




 一応の抵抗……同じ内容でもここでの言動が処罰を甘くも重くもするのだ。


 その言葉に当然ながらカルム卿は激昂してこうまくしたてる。




「騙されてはなりません! リーナス法務卿! その者は――」




 だがカルム卿の必死の訴えは、意外な人物にかき消された。




「ほう。せっかく大将首を持って凱旋したのに出迎えが少ないと思えば……こんな茶番が繰り広げられていたとは」


「グガイン卿⁉ 今は裁判中で――」


「知っている。だから来たのだ」




 グガイン中将の鋭い眼光にさらされ、仲裁者であるリーナス法務卿が固まる。


 だが黙っていられない人間がもう一人。




「……ここに何をしに来られたのかな? グガイン卿」




 カルムが怒りに顔を歪ませながらグガイン中将を睨みつける。


 だがその程度の圧に屈する相手ではない。逆に睨み返されたカルムのほうがうつむくほどのオーラを、グガイン中将は携えていた。




「カルム卿。私がここに来た理由はシンプルだ」




 じっくりと周囲を見渡し、その場にいた全ての人間の視線が全て集まるのを待った後、グガイン中将は俺を指差してこう言った。




「その男は我が軍に勝利をもたらした最高功労者だ。死地において活路を自ら見い出し、獅子奮迅の活躍を見せた」




 それは意外な助け舟だった。


 いや、こうして振り返れば、一貫して俺はこのグガイン中将には“気に入られていた”のかもしれない。

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