第48話三度目の変化

「ここがリング城か……」


 訓練校から南方戦線への中継地点、リング城。

 その城下町に拠点を作る形で俺たちは休息となった。


「リルトさん……」


 メリリアが心配そうにしているのはこの中継地点を離れるときが別れになるからだ。


「そんな心配そうにしなくても……」

「もう引き止めるのは諦めますが……約束、守ってくださいね」

「わかってる」


 生きて帰る、それは守れるように尽力しよう。


「では、これが私からできる最後の届け物です。次からは別の経路を考えます。信頼できるものを使って」


 そう言うとメリリアがあの手紙を差し出す。

 三通目。

 紛れもなく姫様の手紙だった。

 だがさっと目を通しただけで、内容に大きな違和感を覚えた。


『リィト……いまはリルトなんだったかしら?

 なんで知ってるって? 私をあまり舐めないことね。

 私にかかればなんだってわかるんだから。

 それでえっと……元気にやっているのかしら?

 返事くらいよこせないものなの?

 私がここまでやってあげているというのに一体何を考えているのかしら。

 帰ってきたらただじゃおかない……じゃなくて

 とにかく、元気にやりなさい。

 何があっても必ず生きなさい。

 これは命令よ。

 破ったら今度こそただじゃおかないから』


「これは……」

「どうもこれまでとは雰囲気が変わりましたね」


 姫様の態度が軟化しているというか……違和感の最大の正体は「帰ってこい」と一言も言わなくなったところだ。


「リルトさん、アステリア王国の状況はどのくらい入っていますか?」

「今は特段積極的には……」

「そうですか。でしたら簡単にですが、国内、特に王都では民衆の不満が高まっています」

「それは何もいまにはじまったことでは……」


 アステリアはもともと優れた為政者がいたというわけでもない。

 王族貴族の特権も多く、民衆の特権階級に対する不満は常に渦巻いている状況だった。


「おそらくですが……リルトさんが思っているよりも深刻だと思います」

「民衆軍レジスタンスか」

「そこまではご存知でしたか。私は最近になって初めて知ったのですが……そのとおり、動きが活発化しており一部貴族にけが人が出たとか」

「なるほど……」

「リルトさんがいた当時は、貴方が事前に対応していたんでしょうけど……」


 買いかぶりすぎではあるが、たしかに平民、というか孤児の生まれながら王女に仕えるに至った俺はその点非常に動きやすかったのは事実だ。

 民衆軍レジスタンスはある意味国民のガス抜きのためにいい塩梅で貴族や王家も黙認していた存在。ただその塩梅をコントロールできる人間がいないとたしかに問題だ。

 ましてやこれが他国とつながったりすると一気に状況はまずくなるんだが……。

 仮想敵国の帝国の王女に動向が筒抜けというのはまずいかもしれない。


「まあ今の俺には関係ないか……」

「そうかもしれませんね」


 含みのある笑みを浮かべながら、静かにメリリアは星空を眺めていた。

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