第43話剣術訓練②

「私の合図で人形たちもお前たちに襲いかかる。心してかかるのだな」


 生徒たちの気が張り詰めたのを感じる。


「はじめろ!」


 黒い人形が一斉に襲いかかってきた。

 数が多いだけと侮っていた面もあったが、これは……。


「一体一体が強いな⁉」


 ただの人形と言い切れない力がある。一体一体の力はおおよそ一般的な兵士レベルの六割程度だった。


「これ、この魔法だけで戦局を変えられるな……」


 【スキル】と呼ばれる固有魔法、おそらくあのチェブという男の持つ特別な力だ。

 一人行くだけで軍を生み出す魔法。どこまで融通が利く魔法かはわからないが、帝国にとって大きな戦力であることは間違いないんだろう。


 剣一本で対応していては横からくる新手に対応しきれない。

 拳と蹴りを交えて対応していたがちょっと面倒だな、これは……。


「やるか……」


 自己強化は問題ないと言っていたことだし、やらせてもらおう。

 集まってきていた黒い集団を一度薙ぎ払って距離をあける。


 ──精神統一


 本来武人が時間をかけて自己の力を高めるための集中法。

 おおよそ数十秒から数分を使って気を練り上げ、その後の戦闘において自身を強化する技術だが。


「姫様の命令に従うには数秒でこれを済ませる必要があったからな……」


 三秒あれば十分。一秒でも多少の効果は期待ができるというところまでは仕上げている。

 それと同時に周囲に目を向けると、すでに半数以上がリタイアしたようで見学者となっていた。


「おい、なんかあいつ……」

「雰囲気が変わったな」

「雰囲気だけじゃねえぞ……魔力波じゃねえのかあれ⁉」


 周囲の空気が巻き込まれるように渦をつくる。


「行くぞ」


 先程までと違い一撃で人形を打ち砕ける。

 自分の動くスピードをそのままエネルギーとしてぶつければ相手は消える。


「すげえ……」

「なんか……踊ってるみたいだな……」


 周囲の様子にも目を向ける余裕ができる。

 魔法主体のメリリアはすでにリタイアしたようでこちらを楽しそうに見つめていた。


「無限に湧いてくるとはいえ、タイムラグはあるようだし……強さは均一にしかできないようだな」


 特別強い人形や将官にあたるものがいるならそれを狙うことも考えたが、どうやらそういうことはないようだ。できないのかしないのかはわからないが。


「じゃあちょっと、中で暴れたほうがはやいかもな」


 何を評価軸にするかはわからないが、なるべく多く数を倒すことにしよう。

 生き残るだけを目指すよりは良いだろう。そこまでやれば講師がどんな悪意を持っていたとしてもこの場でまずいことにはならないはずだし……。


「ちょっと楽しくなってきたしね」


 一撃で何体倒せるかを隣のアウェンと競い合う余裕すら生まれてくる。

 これまで戦闘行為は一瞬で手早く済ませることだけを意識してきたが、軍は見栄えの良い勝ち方をすると士気にもいい影響がでるというしな。

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