第32話戦略訓練⑤【ギーク視点】→【リルト視点】
◇ギーク視点
「ふふ……正史で勝った方が必ずしも有利というわけではない」
盤上の駒は数も質もこちらが圧倒しているのだ。
正史ではイレギュラーである悪天候に見舞われたが、この盤面上で同じシチュエーションになる確率は三割程度なのだ。
おそらく目の前で飄々としているあの男はそんなこと知らないだろう。
「そもそもなぜこんな奴が姫様に……」
気に食わないやつだった。
素性もわからぬ男がこうも評価されている異常な事態にもう少し、メリリア殿下も警戒してほしいものだ。
「まあ、ここで叩き潰せば興味も失せるだろうがな」
盤上に視線を移す。
私はこのシミュレーションをすでに経験している。その結果、シミュレーション上天候が悪くならないルートを開拓しているのだ。
「あとは万が一のために魔法使いどもを始末してしまえば終わりだ」
数の優位を生かして索敵に人員を割く。
同時に即座に攻撃が仕掛けられるように布陣を整えていく。
念には念を入れた。
万が一やつが魔法使いたちの有用性に気づき、勝つための条件である雷雨をもたらそうとしているとしても、魔法使いたちは敵本陣近くで見つけ次第始末する。
そうすれば俺の勝ちだ。
◇リルト視点
「はじまった」
盤面上の三日が経過し、最初の指示通り駒たちが動きをとっていく。
これまでできたのは移動のみだったが、ここからは作戦行動が開始できる。
「まずは斥候の潰し合いか」
相手の陣形は目視できる位置関係ならこちらからも見えるが、隠れている部隊はわからない。
どの程度後詰めを残しているかを含めてなるべく敵地の情報を探りたいが、当然相手のフィールドではこちらの方が動きにくくなるので情報伝達は遅れがちだ。
「それにしても……本陣付近に随分索敵を撒いてきたな……」
潰しただけで既に二十班近く。
数の優位をここで使うか……。
そしてもはや隠すことなく竜騎士団を中心とした火力部隊を進軍させている。
「なるほど……このルートか……いやまぁ、どこから来てもやることは同じか」
悪天候で火力武器の性能が発揮できないのが正史の結末だが……人為的に作り出された悪天候であれば、それ以上の効果も当然狙える。
どこから来てもやることは一つ。
「魔法使いに仕事をしてもらうとしよう」
ギークの進軍ルート、いや地図上に見えるこちらへ続く道という道に、雷雲を喚び出す。
青の軍に対してこちら側の優位性は地の利と、この魔法使い部隊の質だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます