第8話 返済

 周囲の冒険者たちがこそこそと話を始めている。


「おいあれ……どこにも外傷がないぞ?」

「じゃあ拾ってきたのか……おつかいか?」


 驚きのあと冷静になった冒険者たちにおつかいと言われてしまった。

 そんなに戦えるように見えないのか……自信なくすなあ。


「いやそれよりお前これ、マジックバッグじゃねえか?! どこでそんなもんを!?」

「便利だよね。これ」


 姫様の命令で大量の物資の運搬はしょっちゅうのことだったから、鮮度も保って荷物を運べるこいつは必需品と言えた。


「いやいや。便利だね、とか軽く流すやつじゃねえだろ!? これ一個で帝都に屋敷が建つぞ!?」

「そうなの?」


 マジックバッグが高級品ってことはわかってはいたけど帝都の物価まではわからなかったからな。


「ったく……にしてもこんだけの魔物ならもう半分近く装備代に届くな……貸し甲斐がないというか……返済終わっても助けてくれよ?」

「それはもちろん。それよりこれだけで半分近くになるの?」

「そりゃそうだろ。フレアリザードって言ったら俺でも苦戦するぞ?! それをこんなきれいな状態で……」

「じゃあ良かった。今日で返せるよ」

「は?」


 借りっぱなしは良くないからな。

 マジックバッグから残りのフレアリザードも取り出して並べていった。


「おいおいおいちょっと待て!? 何匹いるんだこれ!?」

「んー。八だね。群れに襲われて返り討ちにしたときのだから」

「しょ、少々お待ち下さい! マスター! 大変です! フレアリザードが八体も!」

「あれ……」

「そりゃそうだろ……」


 大事にしてしまったらしい。

 受付嬢が慌てて奥に走っていってしまっていた。


「良かった……絡まなくて……」

「アウェンが近くにいてくれて命拾いした……」

「ま、俺は最初からわかってたけどな」

「ウソつけ! 真っ先にこいつにわからせてやらねえとなぁ? とか言ってただろてめえ!」

「馬鹿野郎! 聞こえたらどうすんだ!?」


 見ていた冒険者たちもにぎやかに騒いでいた。


「お……おまたせしました。フレアリザードをほぼ無傷で納品されるとのことですので……金額はこちらになります」

「おお……状態が良いとこんな行くのか」


 アウェンが感心してるということは問題ない査定額なんだろう。

 それに待っている間に周囲を見てわかった。この金額があればしばらく宿生活でも困らない。

 いやそれどころかちょっと贅沢をしても十分なくらいの収入になったようだった。


「ラッキーだったなあ。フレアリザードに襲われて」

「お前……Aランク冒険者でも命の危険を感じるはずの大事故だからな? 普通なら」

「ははは。まさか」

「はあ……まあいいかもう……」


 だとしたら俺に挑んでくれたフレアリザードは弱かったのかも知れないな。

 受付嬢からお金を受け取って、きっちりアウェンにも返しておいた。

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