第61話 ならず者の饗宴
「おいおい、そんな格好で仕事したら大事なお洋服が台無しだぜ?」
グリードは肩をすくめ、大袈裟にリアクションを取りながら、山の中腹にある採掘場前の広場へと、足を踏み入れる。
広場には大小様々な石が転がっており、決してきれいに整理されているとは言い難いが、それでも人が集まるには十分過ぎるほどの平地が作られており、遮蔽になるような物もない。
そのことからも、こそこそと物陰に隠れながら忍び込んだり、背後に回ったりなどできないこともあっての、見方によっては開き直りとも取れるグリードの行動であった。
だが、出迎える輩たちにとってはそんな事情を知るわけもなく、ただ目の前に獲物が飛び込んできたとしか映らない。
そんな中に、挑発的な態度を取った男が悠々と歩いてくるのだから、色とりどりのシャツを着た、見た目にも下っ端とわかる、いかつい男たちはすぐさま沸き立ち、今にも飛び掛からんばかりの怒気を放つ。
ただ、そのまま戦闘に突入しなかったのは、間一髪のタイミングでその男の中の一人が口を開いたからであった。
「おい、止まれ。でないと命はねぇぞ!」
男の低くかすれた声を無理やり張り上げたような口調に、グリードは素直に足を止める。
それでもグリードは不敵な笑みを崩すことなく、半円状に取り囲む男たちへと向けて語り掛ける。
「物騒なことを言いやがる。俺は用事があってここに来たんだ。できることなら争い事は避けたいんだが、話ができる責任者はいないのか? 見たところ、どいつもこいつも似通った輩ばかりだが?」
「お前、自分の立場がわかってねぇようだな。マルクの旦那からは誰も通すなって言われてんだ。それと、入ろうとするやつは容赦なく潰せともな」
そう言い切るが早いか、男はグリードの返事を待つことなく、手で合図を送り、戦闘を強引に開始させる。
雄叫びのような掛け声を上げながら、数十もの男たちが一斉に迫ってくる光景。
それは恐怖以外の何物でもなかったが、かといってグリードはそのまま引き下がることもなく、おもむろにその場へとしゃがみ込む。
そして、大声で独り言を漏らしながら、そっと足元にあった手の平サイズの石を手に取り、立ち上がった。
「まったく、わざわざここで働いてる輩を追い出してまで、こんなところに陣取って、一体何がしたんだか……まぁ、何も考えてないんだろうけどよ!」
瞬間、グリードは手にした石を思いきり、迫りくる男たちの波の中へと投げつける。
全力で放られた石は先頭に立っていた男の顔面に直撃し、攻撃を食らった一人はすぐさまその場へと倒れ込む。
いきなり眼前を走っていた男が倒れたことにより、その後ろを走っていた男たちは咄嗟に反応することができず、転倒した男に躓いて、次々と転倒していき、グリードの目の前に迫っていた男の大半が往生する羽目となった。
戦力の大半を後に回させることに成功させたグリードは、積み重なった人の壁を避けるようにやってきた左右からの少数の勢力に、対応をしていく。
飛び掛かってきた男を軽やかにかわしては、身体をつかみ、人の盾として他者からの攻撃を受ける。
そして意識を失う前に盾として用いた人物を放り投げ、その周囲にいた男たちを巻き込んで、攻めを遅延させる。
攻めてくる相手は皆が丸腰というわけではなく、手にナイフを持った者も多数いるにも関わらず、グリードは一切ひるむことなく、まるで素手の相手と闘っているかのように、相手の袖をつかんでは、腹や脚、時には頭部を狙いながら、まるでトレーニングをしているかのように、立ち回る。
唯一の懸案事項としては、敵の物量があまりにも多く、グリードの体力がいつまでもつのかという点に収束するのだが、それに関しても、グリードはとある秘策を持ち合わせていた。
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