火薬の海の宝石狂

一飛 由

第1話 カラッタ共和国カイセン鉄道

 カイセン鉄道はアルフツ大陸を縦断するように伸びる、世界でもっとも長いとされる鉄道であり、大陸最大の国家――カラッタ共和国の流通を支える生命線ともいえる存在である。


 南方へと伸びる線路は、首都クオルより広い農耕地を抜け、東方より東南へかけて関所のように連なる鉱山山脈の最西端に位置するミラル鉱山の麓にある町――ロセへと繋がる。


 ロセを経て、山のすそ野をなぞるように大きく緩やかな弧を描きながら伸びる線路は、岩石と砂地で単色化された、動物も植物もほとんど見られないような土地――カラッタ国民からは『悪魔の手型』とも呼ばれる乾燥地帯をひたすらに南下し、最後、立ち塞がるようにそびえる、カエギスの山に開けられたトンネルを抜けると、ようやくカラッタ共和国第二の都市トルカンに到着する。


 トルカンは現在、首都であるクオルほど商業が発達しているわけではないが、クオルよりも温暖で湿度の高い気候からはぐくまれてきた独自の文化や特産品の存在が、鉄道の開通によって広く知れ渡り、近年多くの人が流入してきている発展途中の都市でもある。


 ただ、カラッタ各地より人々が集まってきていることもあり、急激な工商業の発展の代償として、治安の悪化への対策をどうすべきか早急な対応が求められているという問題も生じていた。


 また、トルカンの周辺にも小さな町がいくつか点在しているのだが、カイセン鉄道はそのいずれにも触れることもなく、緑豊かな平原や丘を越えて遥か南方、カラッタ最南端の都市――ワタにてようやく終点を迎える。


 ワタは周囲を森に囲まれた、都市と呼ぶにはあまりにも小さな町ではあるが、その豊かな自然資源を用いて、各都市へと木材や果実といった品々を送り届けるという無二な役割を担っていた。


 そんな、首都クオルから終点ワタまで伸びるカイセン鉄道は、もちろん距離もあるが、走る列車の機関や性質からも、長い期間を有することになるのは周知の事実であった。


 主に石炭を用いた蒸気機関による、旅客列車と貨物列車を連結した、10両編成の大所帯。


 旅客列車は1等から3等まで階級が分けられており、乗務員以外の往来は基本的に禁止されていた。


 各等級の意味は、快適さの差異であり、数字が若いほど高級なサービスを受けることが可能となっている。


 ただ、内装に関しての差は、一等を除き雲泥の差があるということはなく、どちらかというと、乗り合わせる人間の質の差によるというところが大きかった。


 無論、三等級の方が乗客の質が低いということは言うまでもない。


 酒気を帯びた輩がいようものなら、すぐに怒号やケンカ沙汰に発展するなどということは決して珍しくはなく、そんな時はすぐさま同乗している衛視によって粛清されるという流れが常であった。


 そして、本日も首都クオルよりワタへと向かう10両編成の旅客、貨物の混合列車――通称『フォトン』は、いつものように車輪を動かし、少々荒っぽい振動を車体で奏でながら、ロセからトルカンへと向かう長い乾燥地帯を、白い蒸気を吐き出しながら、走り続けていた。

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