第6話:王太子

「よし、よし、よくやってくれました」


 私は甘える魔獣を撫でてあげます。

 私のために、遠く王都まで行って罰を与えてくれたのです。

 たっぷりとほめてあげないといけません。

 それに私も、柔らかで手触りのいい、魔獣を撫でるのは大好きなのです。

 王太子の片足を食べてくれた魔獣には、たくさん褒めてあげないといけません。


 どれほど馬鹿な王太子でも、私を追放したせいで凶作になったのは分かっていますし、周囲も気が付いています。

 直接言葉にして非難したかどうかは分かりませんが、廃嫡の圧力は強いでしょう。

 廃嫡を避けるには、私を連れ戻さなければいけません。

 ですが、やった事は下劣で、私を怒らせてしまいました。


 使者が両目を潰された事にも恐怖を覚えたのでしょう。

 二度目は騎士団を派遣して、無理矢理私を王都に連行しようとしていました。

 私は神の啓示でその事を知り、最初は呆れ、直ぐに怒りがわいてきました。

 私や神様の怒りを鎮めるために、身を慎むのならともかく、軍事力で無理矢理言う事を聞かそうとするなんて、断じて許せません!


 そこで魔獣に懲らしめてもらう事にしたのです。

 私が頼んだことは必ずやり遂げてくれるのが魔獣です。

 魔獣は風のように素早く王都に行き、王太子と騎士団長の左足を、膝から下を喰い千切ってくれたのです。

 痛みでのたうち回り、恐怖で神に許しを求める二人の姿は、とても情けないものだったと、魔獣が教えてくれました。


 二人が天罰を受けただろうことで、騎士団の派兵は中止となりました。

 主導していた王太子が泣き叫んで取りやめさせたそうです。

 でも、取りやめたからといって、私を捕らえようとした事実は変わりません。

 きっちりと報復させてもらいました。

 片足を魔獣に喰い千切らせただけで、私の怒りが収まる事はありません。


 魔獣の唾液には、毒が含まれています。

 加熱すれば解毒されるので、狩った獣が食べられなくなることはありません。

 私を噛むような事は絶対にありませんし、何かの偶然で魔獣の牙で傷つくことがあっても、聖女の私に毒は効きません。

 ですが、脚を喰い千切られた、王太子と騎士団長は毒に冒されました。


 魔獣の毒は、身体中を徐々に腐らせる質の悪い毒です。

 徐々に内臓が腐ってゆく痛みは、耐え難いものになるのです。

 さらには、内臓が衰え腐っていくので、食べた物を嘔吐したり下痢したりします。

 その衝動はとても激しく、トイレまで我慢ができず、衣服を汚物で汚すことになりますから、とても王太子や騎士団長の威厳は保てません。

 彼らが苦痛に苛まれ恥をかくと思えば、少しは溜飲が下がります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る