第1話「少年、それでも冒険者を志す」
昨日までは朝起きて窓の外を見るとキラキラと世界が輝いて見えたのに、今の俺には灰色に見える。それもこれも授かったギフトのせいだ。
何かの間違いかもしれないと起きる度に確認をするが、全く変化は訪れない。
『男とキスをすると数分の間能力がめっちゃ上がる!!濃厚であれば尚よし!!』
なんでやねん! 俺が一体何をしたというのだ。ああ、神よ、俺に何の恨みがあるというんだ。それとも俺には何か役目があって、これはそのうちの試練の一つだとでもいうのだろうか。
『あ、間違って…………ま、いっか。どうせ皆この空間での出来事なんてあっちに戻ったら忘れてるし……』
うん、違うよね。多分だけどこれが原因だよな。ギフトを授けてくれる神様って奴は絶対にあの女だろ。間違いって何?間違いって。神様でしょ? 何しちゃってんの? 神が酒なんかによってんじゃねーよ!
「俺はノーマルだあぁぁぁぁぁ!」
あのクソ女、絶対に許さん。神だろうが何だろうが次出会ったら説教してやる!
世界に絶望していると、目の下に隈を作った父さんが俺の下へやってきた。
「か、カミト。父さん一晩寝ずに一生懸命考えた結果、一つだけ解決方法を思いついたんだ」
「とーさん!本当か!?」
こんなにも早く解決方法が思いつくなんて。きっと、もう一度ギフトを授かれる方法とかがあるのかもしれない。流石、賢くて家族想いな俺の自慢の父さんだよ!
「父さんと一緒に冒険して、俺とキスすればいい! 大丈夫、父さんは嫌じゃないぞ!!」
「俺が嫌だよ! 頭がおかしくなってるから一回寝てきなよ!!」
「父さんは正常だぞ!」
「なお悪いわ!!」
前言撤回、俺の父さんは頭が可笑しかった。
これからどうしようかと小高い丘の上で黄昏る。いっそのこと、非生産系のギフトの方がましだ。それならば将来その職業にさえつけばいい。だが、俺のギフトだとどんな仕事の役にも全く立たない。
「あら、カミトじゃない。そんな所で落ち込んでどうしたの?」
「誰かと思えばマルカか」
俺に声を掛けてきたのは幼馴染であるマルカだ。同世代の男どもの中でもダントツの人気を誇る彼女は、ことあるごとに俺に絡んでくる。マルカのことだ、腰まで伸びた紅色の髪と同じような光に包まれ、きっと強力なギフトを授かったのだろう。俺なんかで遊んで何が楽しいのだろうか。それにしても最悪だ、こんなタイミングで出会うなんて……。
「あ、もしかして思った通りのギフトじゃなかった? もしかして非生産系のギフトだったの?」
「…………(まだ、非生産系ならよかったよ)」
「聞いて驚きなさい、私は『魔道を極めるもの』っていうギフトを授かったわ!」
「…………(おれもそんなカッコイイのが欲しかった)」
「ふふ、凄すぎて声も出ないでしょ。で、やっぱりカミトはしょっぼいギフトだったのかしら?」
「…………(しょぼい位ならばまだ頑張れた)」
「まぁ、そんなに落ち込まなくても良いわよ。この将来を約束された私が養ってあげるわ!」
「…………(憐れまないでくれ)」
「勿論タダで養ってあげるわけじゃないわよ。私のために毎日ご飯を作ってもらうわ! それから添い寝もしてもらうし、将来的にはき、キスとかもしてもらって……それからそれから……」
無い胸を堂々張って、マルカは次々と俺に言葉の刃を突き刺す。
マルカは今何て言った? キス……って言わなかったか? キス、キス、マルカとキス?
「キスってお前は女じゃねーか!!!! 意味ないじゃん!!」
「ふぇっ!?」
俺の大声に驚いたのか、普段の切り目が大きく見開かれ真ん丸になっている。普段はおとなしい奴が大きい声を出したらそりゃ驚くのも無理はないか。
「すまん、大きな声を出して」
「へ、ほぇ?」
「それじゃぁな」
虫の居所が悪かったからといって、女子に大声を出すなんてかっこ悪かったな。このまま落ち込んでいてもどうしようもない。ちょっと気分転換に森にでも出かけるか。
森でいつもの日課である狩りを行う。今日の狙いは大ネズミだ。
奴等はそこまで強くはないが、夜な夜な農作物を齧ることから村人からは恐れられていた。畑を木の柵で囲っていても、その策を鋭い歯で物理的に破るため、意味もなさない。
しかし、そんなビッグラットにも弱点がある。
お、さっそく一匹発見。思惑通り、事前に木の根元に置いておいた人参に齧りついている。今がチャンスだ。
真上から見下ろしていた大ネズミの真後ろに着地する。少なからず着地音がしただろうに大ネズミは気が付かない。大ネズミの弱点、それは作物を食べている間は作物に夢中になり過ぎて周囲の音や気配に鈍感になるのだ。
俺はそのまま短剣をビックラットの首を目がけて振り下ろした。
倒した大ネズミは血抜きをした後、近くの川で洗い、皮を剥いで内蔵の処理を行う。その後、大きな葉に包んで村へと引き換えした。
村へ戻ると、いつも買い取りしてくれる唯一の肉屋へ足を運ぶ。
「おお、坊主今日もありがとよ。相変わらず仕事が丁寧だから助かるぜ」
「おじさん、こちらこそ毎回買ってくれてありがとうございます」
冒険者を志してからは、毎日大ネズミを狩っては肉屋で換金してコツコツお小遣いを貯めていた。もしかしたら俺は村一番の金持ちではないだろうか?
肉屋から出ると、同世代の少年たちがそれぞれ大ネズミを持ってこちらへ向かってきていた。
「すげーよ剣術って。今まですばしっこくてまともに剣も当てられなかったのがウソみたいだ」
「俺の火魔法もなかなかだったぜ。この通り真っ黒こげだし!」
「流石戦闘系のギフトだよな。大きな怪我せず大ネズミを倒せるようになるんだから」
おいおい、あいつの持ってるの切り傷多すぎだろ。あれだと売れる様な肉殆どないぜ? それにあの黒焦げのやつは論外だろ。それにしても皆大ネズミを狩るくらいで泥だらけになるとか汚れすぎじゃないか?
聞こえてくる会話からして全員戦闘系のギフト持ちだよな。あいつらは大ネズミを狩るだけで泥だらけ、それに引き換え俺の服は綺麗なものだ。
ギフトなんかなくても俺なら冒険者になれるんじゃね?
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