第237話 ドロテーも戦う
「んっ…」
「あっ!い、いきなりは流石に、きついわね…」
非常時のため、ライナとミズアに即【強化】を施す。
「ま、こんなところでは落ち着いてお前たちを愛することもできないしな」
「そりゃ、そうだけどさ」
「ミズアは、ドミーさまとならどこにいても快適ですよ?」
「気持ちだけは受け取っておく。さあ、行くぞ」
俺を先頭にして慎重に前進するが、特に罠などはないようだった。
「ここがムドーソ水道から遠く離れた場所と思うか?」
「さあね。多分、床に転移魔法か何か仕組まれていたんだろうけど」
「周囲から物音は聞こえてきません。地下であることに間違いはないようです」
ライナとミズアが自らの予想を述べる。
いずれにしろ進むしかなさそうだ。
扉の前までたどり着き、俺は取手に手をかけた。
「行くぞ。覚悟は良いな?」
背後の両者は言葉の代わりにうなずきで返す。
俺は深呼吸し、扉を思い切り開けた。
「…待っていたぞ」
先程くぐり抜けた通路より広い石造りの部屋。
端に玉座のような席が見える。
その玉座に、道化の格好をした壮年の女性が立っていた。
ドロテーだ。
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「ドロテーさま、お久しぶりです」
ミズアが静かな声で語りかける。
「あなたがいるということは、やはりここに鍵があるのですね」
「…隠しても仕方あるまい。ここは、エルムス王がムドーソがもしもの時に備え作らせた地下の避難所だ。鍵は、ここ謁見室を抜けた先に保管されておる」
目を凝らすと、玉座の隣に新たな扉が見える。
わざわざ教えるのは、ここから先は通さないという覚悟の現れか、それとも…
いずれにせよ、突破しなければ俺たちに未来はない。
「1つだけ聞かせてくれ。ロザリーはどこに行った?金で雇われていたはずだが」
「知らぬ。お前も知っている通り、姿をくらました。行動も共にしておらぬ」
「そうか…」
「さあ、腹の探り合いはこれぐらいにしよう」
ドロテーが懐からいくつかの球ー【弾球】と言ったかーを取り出し、ジャグリングを始めた。
最初はゆっくり、徐々に早く。
やがて目も止まらない早さとなり、ドロテーの手から完全に離れ、回転しながら周囲を漂い始めた。
その6個。
そして、部屋全体が振動を始める。
「残念だが、この空間はもうじき鍵とともに崩壊する」
こともなげにドロテーは言った。
振動は激しさを増し、玉座もがたり、と音を立てて転げ落ちる。
「王国の秘密と共に、貴様らを葬り去らん!」
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「ドミーさま!ライナと先に行ってください」
ミズアが【竜槍】を構え、前に出る。
「無理をするな!3人で立ち向かえばいい」
「早く行かねば鍵は失われます。いずれにせよ、あの【弾球】の速度に対応できるのはミズアしかいません」
「だが…」
「大丈夫です」
俺の方を向き、誇り高き槍士がほほ笑んだ。
「ミズアは必ず、ドミーさまのお子を産みます。それまでは絶対に死にません」
笑みを浮かべているが、瞳には強い決意が宿っている。
この時のミズアは絶対に引かない。
だが、俺の期待を裏切ったこともない。
「まったく、お前は強情だな」
「ドミーさまから、諦めない心を学んだのです」
「絶対に、死ぬなよ」
「はい、もちろんです」
最後に、俺とミズアは軽くキスを交わした。
「ありがとうございます。では!」
ミズアは勢いよく飛び出し、【道化】と対峙する。
「ドミー!」
「分かってる!」
俺とライナは勢いよく走り出し、玉座の横にある扉までたどり着いた。
扉を開けて奥に進もうとするがー、
「通すか!」
ドロテーが手をかざすと、【弾球】の1つが目にも止まらない速度で俺に迫ってくる。
ある程度予想はついていたが、なんらかの方法で【弾球】を高速移動させるのがドロテーのスキルらしい。
だが、届かない。
「【刺突】!」
ミズアが目にもとまらぬ高速で跳躍し、【弾球】の1つを叩き落としたからだ。
「あなたの相手は、このミズアです!」
彼女の凛とした叫び声を聞きながら、俺とライナは前へと進んでいった。
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ドミーさまとライナの背後を襲おうとした【弾球】の1つを叩き落とします。
そのまま2人は扉の向こうに消え、ひとまず危機を脱したようです。
「これで…っ!」
背後からの殺気を感じ、跳躍。
脳天を狙った【弾球】がわずかに頬をかすめるのを見ながら、床に着地しました。
視界の先には、悲しそうな表情を浮かべた道化が1人。
「お前とこうなるとはな。本心を言えば、刃を交えたくはなかったぞ!」
そう言いながらも、残りの【弾球】は一斉に迫ってきました。
一切の躊躇のない、本気でミズアを倒すための制動。
当たればミズアの肉と骨を砕き、容易に死に至らしめるでしょう。
でも、引けません。
「それは、ミズアも同じです!」
覚悟を決め、【竜槍】を携えながらあえて突進します。
代々ムドーソ王家に仕えてきた者同士。
一方は王国を守るため、もう一方は王国を倒し民に幸せをもたらすため。
ムドーソ王国の命運を決める戦いが、幕を開けました。
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「これが…」
崩壊が徐々に進んでいく地下空間。
落石に気を付けながら前に進むと、小さな台座が見えてきた。
白の大理石で作られた、低くて小さい台座。
「ドミー。これって…」
背後から付いてきたライナが、驚きの声を上げる。
「ああ、間違いない」
台座の上には、銀色のカギが1つ。
「【守護の部屋】の封印を解くカギだ」
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