第230話 それぞれの日常2

 「どうだ、久々の生まれ故郷は」

 「ほとんど昔の想い出のままです」


 【ドミー軍】がムドーソ城に入城する2日前の夜。

 ミズアは、ドミーさまととある場所にいました。


 「領民もミズアを見て喜んでいたぞ。若き頃のユッタさま、つまりお前の母親とうり二つだと」

 「そ、そうでしょうか?」

 「ははは、謙遜するな。ミズアは立派な【竜槍】の後継者にしてムドーソ1の槍手。母上も喜んでいるだろう」


 ムドーソ城にほど近い場所にある農村、ビーレフェルトにある広大な屋敷です。 

 すなわち、ビーレフェルトを代々支配してきたメクレンベルク一族の居住地。


 すでに逃亡していた大貴族に代わってビーレフェルトを接収した後、屋敷を仮の宿泊場所としたドミーさまは、ミズアを夜の供として呼んだのでした。


 とある一室で、一晩ドミーさまと2人きりです。


 「そんな。ミズアは、お母さまには遠く及びません…」


 表面上は何事もないように話していますが、心臓が早鐘のように鳴り、額からは汗が吹き出しています。

 

 (緊張する…お母さま、ミズアに勇気を…)


 このような状況になってしまっている理由は、2つあります。


 1つ目が、友人であるライナがいないこと。


 2つ目がー、




 ードミーと2人で行きなさい、ミズア。

 ーそ、そんな!ライナがいないと、怖くて…

 ー安心して。ドミーは優しいから。ドミーも、きっとそれを望むはずよ。

 ーじゃあ、別れる前にミズアをぎゅーっとしてください…

 ー分かったわ、ぎゅーっ。


 この機会に、ドミーさまと結ばれたいと願っているから。



==========



 ミズアは、気の毒なぐらいに緊張してしまっている。  

 

 楽しむ余裕すら見られたライナとは正反対だ。


 「大丈夫、怖くない…痛くない…」

 部屋に置いてあった椅子に腰掛け、顔を真っ赤にして縮こまる。

 心の中で呟いてるつもりの独り言が出てしまっているようだ、


 いかんな。

 ここは俺が導くべき場面だろう。


 「ちょうどこんな日の夜だったな、ミズア」

 「こ、こんな日?」 

 「ああ」


 こういう時は、思い出話に限る。


 「ミズアと出会った日だ。【廃兵院】で出会った時は、明日にでも亡くなってしまうのではないと胸が痛んだよ。ほら、月の満ち欠けもちょうど同じだ」

 

 俺は窓側に立ち、空を見上げる。

 まん丸で美しい満月が、星空の一角に浮かんでいた。


 「…綺麗」


 ミズアもゆっくりと立ち上がり、横で一緒に眺める。


 「ミズアが【竜槍】を受け継ぎ、メルツェルに立ち向かってくれたから俺はここにいる。改めて礼が言いたい。ありがとう」

 「いいえ。礼を言うのはミズアの方です。あなたさまが救ってくださらなければ、【廃兵院】の一角で絶望したまま命を落としていました。感謝してもしきれません…」


 その後、俺とミズアはしばらく思い出話に花を咲かせる。

 

 ーライナ含む3人での旅。

 ーケムニッツ砦の強襲。

 ー【ドミー軍】の結成。

 ー【カクレンの乱】の鎮圧と戦後処理。

 ー【シオドアリの巣】の解放作戦。

 ーライナを狙うイラートとの戦い。


 どれ1つとして、ミズアがいなければ乗り越えることができなかった。

 ミズアが俺とライナに付き従い、身を張って守ってくれたおかげだ。


 楽しいことも、悲しいことも、辛いことも、腹立たしいことも。

 全て共有し、絆は永遠のものとなっている。


 あとは、最後に彼女の想いに応えてやりたい。



 ==========



 「渡したいものがある」

 「…はい」


 想い出話が途切れた頃、俺は懐から箱を取り出し、蓋を開ける。


 そこには指輪が入っていた。


 ヴィースバーデンの宝石店で買った、ライナと同じ種類のものだ。


 「俺の妻になってくれないか。ライナと同じく、終生そばにいて欲しい」

 「いいの、ですか?」

 「ああ」

 「ミズアは、ライナのように機転が効きません…」 

 彼女の目線が下がり、声が少し震える。


 「その分、素晴らしい槍術と体術を持っている」

 「女らしくも、ありません」

 「そんなことはないさ。ミズアは戦士としてだけでなく、女性としても魅力的だ」

 「交わりも、うまくできないかも…」

 「それは、俺が責任を持って導く」

 「…」

 「必ずお前を幸せにするから、俺のそばにいてくれ」

 「ドミー、さま…」


 再び目線が上がった時、ミズアは涙を流していた。

 

 悲しさからくる涙ではない。

 幸せと喜びからくる、温かい涙だ。


 「ミズアは、とても嬉しいです!」


 花のような笑顔がその証拠。


 「メクレンベルク・フォン・ミズア。あなたさまに永遠の愛を誓います!」


 新たな誓いとともに、ミズアは指輪をそっと薬指にはめた。


 

 ==========



 「ミズア…そろそろ限界だ」


 寝台の上に仰向けとなったミズアに、ドミーさまが覆い被さっています。


 「ドミーさまっ…ミズアも、もう…!」


 ドミーさまがゆさゆさと揺らされるたび、頭の中がチカチカとして、真っ白になります。

 痛みはとうに消え去り、はしたない声が止まりません。


 これが女性としての幸せなのでしょうか。

 ドミーさまと繋いだ手の暖かさがなければ、とうに気絶していたでしょう。

 …少しだけ、ライナを羨ましく感じました。


 「んむっ…」

 油断していると、ドミーさまに唇を重ねられます。

 その荒々しさにさらに興奮を高められー、



 「いっ…〜〜〜〜〜!」


 今までで1番深く、激しい快感に包まれました。


 スキルによるものとは違う、深い交わりがもたらす快感。

 お腹の中が熱を帯び、全身が震えます。

 

 (ライナ…あなたの言う通りです…ドミーさまは、ミズアを導いてくれました…)




 幸せに満ちた時間は、朝になるまで続くのでした。

 


 

 

 

 

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