第168話 ドミー、ミズアのビキニを拾う

 「ど、どこに流れたんだ?」

 「あちらです…」

 ミズアは浜からさらに離れた方を指差す。

 確かに、青いビキニらしきものが浮かんでいた。

 そこまで離れてはいない。


 「任せろ、取ってくる」  

 「いえ、ミズアが自分で責任をー」

 「戦場では世話になってるからな。俺もミズアの役に立ちたい」

 「ドミーさま…」 

 「というわけで行ってくるぜ!」


 幸い、擬似的な海のため波の流れは強くない。

 少し泳ぐだけで、すぐにビキニは回収できた。

 …ちょっと背徳的だが、やむを得ない。


 ミズアの所に戻って、ビキニを渡した。


 「俺の後ろに移れ。そこで着替えればいい」

 「は、はい」

 

 【竜槍】を受け継いだ少女は指示通りに動き、着替え始める。

 念のため周囲を見渡したが、【ドミー軍】の面々は誰もいないようだ。


 そのまま、静かに時が流れる。

 浜で【ドミー軍】がはしゃいでる喧騒を、ぼんやりと聞いていた。

 楽しんでくれているようで、なによりである。


 「お待たせしました」

 

 振り返ると、ミズアのビキニはきちんとその役割を果たしていた。

 

 「このミズア、一生の不覚です」

 「何か考えことでもしていたのか?」

 「はい。少し」

 「どんなことだ?」

 「…【カクレンの乱】のことを考えていました。カクレンさまが逃走した時、ミズアは取り乱してしまい、ライナの判断力がなければ危うい状況でした」

 「そうか」

 「運良く討ち取れましたが、ミズアが単独で行動する時、自分の欠点が露呈しないか心配になったのです」

 

 (…ミズアには、戦闘時知謀にマイナス補正が掛かる【直情】の個性がある。おそらく、そのことを本人も感じ取っているのだろう)


 「ははは!休暇中にも自らの役割を考えるのは、俺も見習わないといけないな。俺は遊ぶことしか考えてなかったぞ!」

 「ドミーさまは、どう思われますか?」

 「答えは決まっている!」


 俺は悩める少女にアドバイスする。

 

 「そのままでいい!!!」



==========



 「そ、そのままですか?」

 ミズアは腑に落ちないといった顔をする。

 「ああ。理由はなんと3つもあるぞ!」

 「お聞かせください!」

 「ああ。まず1つ目。人間誰しもが欠点を持って生まれてくる。それを無理やり矯正しようとするより、自分の長所を伸ばした方が良い」

 「長所…」

 「ああ。ミズアの場合は槍術や跳躍だな。俺はあれこれ悩むミズアより、この2つをひたすら極めるミズアの姿が見たいぞ」

 「…」


 ミズアは俺の言葉に耳を傾ける体制に入ったようだ。

 そのまま続ける。


 「2つ目。俺は【ドミー軍】の誰かを単独で危険地帯に送る真似はしない。お互いの短所を補い、それぞれが長所を最大限発揮できる編成を心がける」


 でなければ、俺は誰かを犠牲にしてしまうだろう。

 そうなれば、ムドーソの無能な国王と俺はなんら変わらない。


 「カクレンを討ち取ったのも、ライナとミズアが一心同体となって挙げた成果だ。ライナに引け目を感じる必要はない」

 「そうなのでしょうか…」

 「ああ。それになー」


 俺はミズアの頭を撫でた。

 それに反応して、ミズアは恍惚とした表情を浮かべる。


 「ミズアは俺の期待をこれまで1度も裏切らず、【竜槍】で強敵を討ち果たし、跳躍で【ドミー軍】の移動を助けた」


 3つ目の理由は、俺が彼女に寄せる信頼。


 「ミズアはムドーソ王国、いや、レムーハ大陸で最も優れた槍士だ。多少の欠点なぞものともせず、今後もムドーソの安寧に貢献し続けると俺は信じる」



==========



 最後まで聞いたミズアはー、


 「…ありがとうございます。胸のしこりが、ようやく取れました」


 笑みを浮かべた。  

 よかった。


 「ああ!これからも頼むーんん!?」


 そして俺に体を寄せ、抱きしめる。

 

 「くっ…!」

 強烈な快感に呑まれそうになるが、ミズアは怯まない。

 そのまま、豊満な胸が潰れんばかりに力を込める。

 海と違って、その体は熱い。


 「ミズア…」

 「ドミーさま。ありがとうございます。ミズアに命と、使命と、信頼とー」


 その表情は、夜乱れている時となんら変わらない。


 「愛を与えてくださって…命ある限り、いえ、命尽きようともミズアはドミーさまのものです」

 「…ありがとう」


 俺は、ミズアの柔らかな唇に口づけをした。


 ミズアの締め付けが一層強くなったかと思うと、痙攣が始まる。


 俺の腕の中でー、


 ミズアは【絶頂】した。



==========



 すっきりした表情のミズアから、腕を解く。

 

 …冷静に考えると、かなり恥ずかしいことをした。


 「ごほん…さあ、戻るか。まだ休暇は続いている。ミズアも思いっきり楽しめ!」

 「はい!」


 その時、浜の方から声が聞こえる。


 「おーい!ドミー、ミズア、大丈夫?」


 ライナである。

 傍にはイラートもいた。


 そういえばいなかったな。

 

 「大丈夫だ!今から戻る!ミズア!俺とどっちが早いか競争するぞ!」

 「はい!」


 ミズアはスイスイと泳いで行く。

 身体能力は【ドミー軍】の中でもピカイチだ。

 

 ギリギリミズアが勝利する程度に、速度を調整しながら泳ぐ。


 やがてライナの待つ浜に到着したが、ミズアは先に立っていた。


 「ふう、さすがミズアだ。この俺を破るとは…うん?」


 足元に、柔らかい感触。

 拾ってみるとー、





 青いビキニだった。


 「…あれ?」

 「ど、ドミーさま!恥ずかしいです…」

 

 事態に気づいたミズアがうずくまった。

  

 いかん!

 愛する者のピンチだ!


 ビキニを慌ててミズアの下に持っていくがー、


 「ふーん…随分浜から離れていると思ったら、か弱い女の子にそんなことして楽しんでたんだ…」


 目の前にはライナがいた。

 その様子を音で表現すると、こんな感じである。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ…


 「ご、誤解だ!ミズアからも言ってくれ!」

 「ドミーさまから愛を頂きました…」

 「いや嘘じゃないけど!もっとこうなんというかー」

 「問答無用!!!変態征伐!!!」


 手に持っていた【ルビーの杖】が炎を帯びる。


 「【ファイヤ】!!!」

 「あんぎゃあああああ!!!」


 こうして、俺とライナの逃避行が始まる。






 「ウフフ。やっぱりドミー将軍って面白いなあ」

 その様子を見て、イラートは笑った。


 


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