第129話 小心者をざまぁし1000人を得る(前編)
【イトスギの谷】に進軍する日の朝。
俺は愛馬【アハルテケ】に乗り、数人の供を連れてウエン公の陣に向かった。
ウエン公からは、一応会見に応じるという返答を得ている。
ー可能であれば何らかの助力を得る。
ーウエン公が動くとは思えないけど…
ーやるだけやってみるさ。
トゥブは乗り気ではなかったが、いずれにせよ後方の安全は確保しておかねばならない。
ウエン公が変心して背後を襲われれば、叛乱は一瞬で瓦解するだろう。
様子を探り、【ブルサの壁】に置く守備兵の数を決める。
もちろん、会見に現れた俺を捕らえるという可能性もあり得た。
そのため、ウエン公の陣営奥深くまでは入らず、その入り口で【アハルテケ】に乗ったまま会見する。
だがー、
陣営入り口にたどり着いた俺を待っていたのは、弓を構えた武装兵たちだった。
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「無礼な!【オークの誇り】を取り戻さんとする我らに弓を向けるとは何事ぞ!」
共の1人が怒る。
それを抑え、俺は武装兵の1人に呼びかけた。
「ウエン公はいずこにおられる。カクレンが参ったとお伝えいただきたい!」
「お、おお。カクレンか」
武装兵たちの隙間から、ウエンが姿を現す。
一丁前に鎧と武具を装備しているが、その足取りは重い。
普段から使っていないのだから当然か。
80年前の【第一次アルハンガイ草原の戦い】でオーク軍総司令官を務めるも戦死したウジュキノの子孫、ウエン。
ムドーソの懐柔策で公の身分や経済的恩恵を授けられたこの老人に、先祖の無念を晴らす気概はまるで感じられなかった。
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とにもかくにも、互いに少し距離を置きながら会談は始まる。
弓を構えた武装兵がいる以上、そうするしかない。
何があっても対応できるよう、【アハルテケ】に騎乗したままウエン公と話す。
「本日は挨拶に参りました。我ら6000の兵は【イトスギの谷】へと進軍し、必ずやムドーソ王国に復讐を成し遂げます」
「う、うむ…」
「ウエン公には背後からの援護という非常にありがたい役割を担っていただきました。感謝いたします」
「も、もちろんじゃ。わしは偉大なるウジュキノの子孫じゃからの」
「ですが、もし可能であれば兵をお貸しいただきたい。物資でも構いませぬ。さすれば、ウエン公の名声はさらに高まるでしょう」
「…」
「お願いいたします」
老人は少し押し黙った。
「そのことなんじゃがな、1つわしに頭を下げてくれんか」
「…どういうことでしょうか」
「どうも最近は、ワシよりカクレンの方が公にふさわしいという不届き者がおってのう。安心できんのじゃ」
「…」
「ワシに頭を下げ、叛逆の盟主として尊重してくれるなら、何らかの助力を考えてやらないでもない」
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やはり、小心者は最後まで小心者か。
失望が胸に広がる。
助力をするというのも口だけだろう。
俺が【イトスギの谷】に向かえば、後方で見てるだけの自分がより非難されるのは火を見るより明らか。
その前に俺に頭を下げさせ、なけなしの権威を保持したい。
そんなところか。
権威を保ちたいなら、戦いに打って出るしかないだろうに。
ウジュキノも天で泣いているぞ。
「分かりました」
「ほ、本当か?」
俺は【アハルテケ】から降りた。
そんなに見たいというなら見せてやろう。
それが、少しでも同胞の助けになるなら。
【オークの誇り】を取り戻すきっかけとなるなら。
例え【叛逆者】の矜持に逆らうものであっても。
ートイラオ部族のエセンと言うものです!歳は15!今回が初陣となります。
自分を信じて付いてきてくれる者の中には、年端もいかぬ少年もいるのだから。
膝を付き、平伏して礼を行う。
ムドーソでも行われているという、最敬礼。
土下座だ。
武装兵に動く気配は感じられない。
何かあればすぐ動き出せるよう警戒はしておこう。
「改めてお願い申し上げます」
土を眺めながら、ウエン公が望んだものを見せてやる。
「【ブルサの壁】が陥落し、ムドーソ国王が【守護の部屋】を動かせない今こそ絶好の機会です。【オークの誇り】を取り戻すため、力をお貸しください」
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「よ、よいぞ」
ウエン公の言葉に、頭を上げた。
万が一、という可能性に賭ける。
「沙汰は追って伝える。先に【イトスギの谷】へと向かうがよい。ワシも準備を整えた後、軍勢を率いてムドーソに止めを刺すじゃろう!」
「…ありがとうございます。それでは、行って参ります」
ウエン公との徒労の日々も、これで最後だ。
叛逆が成功すれば、無能な小心者を引きずり下ろして俺が王となればいい。
ウエンのようにムドーソから与えられた公の位ではなく、本物の王だ。
立ち上がって、【ブルサの壁】に戻ろうとした。
「待たれよカクレン殿!!!」
その時、誰かが俺を呼ぶ声がする。
ウエン公の声ではなかった。
振り返ると、陣営に人だかりができている。
数百人はいるだろうか。
「き、貴様らなんじゃ!無礼であろう!」
動揺する武装兵やウエン公を押しのけ、1人のオークが前に進み出た。
30代ほどの、痩せ形の男性。
「私はクルテュ族の戦士ノイン!部族1000人を代表し、貴殿にお尋ねしたいことがある!」
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