第84話 ドミー、78人をもてなす準備をする

78人の【ジャンピング土下座】を受け入れた後、俺はアマーリエとゼルマに再度部隊を任せることにし、事前の打ち合わせ通りその場を離れた。

 俺がいては言えないこともあるだろうしな。


 とういうわけで、ライナとミズアを連れて、連合軍から見えなくなる地点まで移動した。

 そこでー、


 「あああああ、疲れたー…」

 草原に倒れた。


 「ドミー!?」

 「ドミーさま!」


 ライナとミズアが慌てて駆け寄る。


 「人を怒るのって、演技でもしんどい」

 嘘偽らざる感情だった。

 いや、むしろ演技だからこそしんどいのかもしれない。

 だが、先ほどのように怒りの感情がなくても怒らなくてはいけない場面は、今後もあるだろう。

 支配者を目指すなら、尚更だ。


 「ライナとミズアも悪者にして済まなかったな」

 「なに言ってるのよ、事前の取り決め無視してアマーリエと決闘しようとしたくせに」

 「あれは、アマーリエが悪ノリしたから悪い。いや、悪ノリじゃないのかもしれないが」

 「とにかく、お二方が無事で済んで幸いでした」

 「ああ。連合軍が止めてくれなかったら、そのま決闘するしかなかった」

 「【ウォール】で防がれてボコボコにされる未来しか見えないわね…」

 

 とにかく、目的は達成した。

 連合軍の冒険者たちをそのまま罰すれば、反感で訓練どころではない。

 だが、本来無関係であるアマーリエとゼルマを責めれば動揺するだろう。


 手を抜いた自分たちのせいで尊敬する人が罰せられた。

 

 多くの人間は、自責の念に駆られるに違いない。

 …邪道だけどな。

 何か災いが起きれば、俺が責任を取るしかない。


 立ち上がろうとする俺だが、誰かが手を差し伸べているのに気づく。


 ミズアとライナだ。

 「さあ、行くわよドミー」

 「ドミーさま、遠慮なくお使いください」

 

 ライナのほっそりとした手と、ミズアのほどよく筋肉のついた肉感的な手。

 どちらも、俺にとって頼もしい仲間の手である。


 「ああ」

 俺は2人の手をしっかりと握り、立ち上がった。


 「あひいいん!」

 「あっ…」

 強く握りすぎて、2人とも瞬時に【絶頂】した。



 ==========



 「ドミー将軍にも悪いところがあるし、私も冷静さを欠いていた。だが、貴殿らも悪いところがある。指揮権の移譲に異議があるならはっきりと申し出ればよかったのに、それを怠った」


 ドミー殿、いや、ドミー将軍が去った後、私は連合軍78人と話し合いを行った。


「また、訓練にも真面目に参加せず、手を抜くという行為で返した。将軍が、その必要性を懇切丁寧に説いてもだ」

 

 「面目ない…」

 「アマーリエさんにも、迷惑をかけました」

 各々反省の弁を述べる冒険者たち。

 その姿を見ながら、私は昨日行われた打ち合わせを思い出していた。



==========



 ーいや、悪役は俺自らが引き受けよう。

 ー自ら、ですか?

 ーああ、アマーリエが悪役となる必要はない。


 元々、この一芝居は私の発案だった。

 私が怒りに駆られて冒険者たちを罵倒し、それをドミー将軍が擁護する。

 そうすることで、ドミー将軍の求心力を高める計画だ。


 ーしかしそれではー

 ーアマーリエ。俺は軍は必要と言ったが、軍そのものを自ら掌握するつもりはない。信頼できる人物がいるならそれに越したことはないのだ。だから、アマーリエが悪役を務めるわけにはいかない。

 ーそうですか…確かにそうかもしれませんな。

 ーもちろん、俺が完全なる嫌われ者で良いというわけではない。それに関しては、一応考えがある。


 本当にムドーソ王国を打倒する自信がおありなのだな…


 でなければ、ここまで先を見通した考えは出てこないだろう。

 凡人なら、私を無理やり貶めてでも連合軍を掌握しようとするはずだ。



==========



 「こうなったら、見返してやろうではないか!」


 私は、冒険者たちの前で手を広げた。


 「見返す…?」

 「しかし、あの3人には勝てませんぜ」

 「ケムニッツ砦のゴブリンみたいになっちゃうよ」


 「戦えと言ってるのではない」

 冒険者たちの言葉に少し苦笑するも、話を続ける。


 「本日中に、行軍だけでも形を仕上げてしまうのだ!そして、我々の陣形が未完成だと侮っている将軍に見せつけてやろう!ぎゃふんと言わせてやるのだ!」


 「そうねアマーリエ」

 ゼルマも賛同した。

 「あたしを愛してると言ったのだから、少しはところね」

 いたずら好きな少女のようにウィンクする。


 「なっ…あれはその、ゼルマを見てつい気が立ってしまってな、だから、あれだ。ええと」

 「ヒューヒュー!」

 「お幸せに!」

 「2人のためにも、あのドミーを見返してやろうぜ!」

 

 恥ずかしい気持ちでいっぱいになったが、とにかく冒険者たちの士気は戻った。


 あとは、私の手腕次第だ。

 


==========



 「ハンナ!列からずれているぞ!わずかな乱れが自分の死を招くと思え!」

 「は、はい!」

 「クリスティーネ、上空から見たけど、方向転換のタイミングが遅れてるわね」

 「気を付けます!」


 訓練開始から2日目の朝。

 陣形を保ちながらの行軍は、見違えるほど上達していた。

 地上からはアマーリエ、空中からゼルマがスキルで監視し、隊列のずれやミスを調整していく。

 俺の想定以上だった。

 本日中には、攻撃や防御といった新たな段階に移れるだろう。 

 朝に連合軍をフォローする言葉をかけるつもりだったのだが、訓練に熱中しているため声をかけづらい。

 夕方にしよう。


 「じゃあ、ライナ、ミズア」

  

 というわけで、【ドミー団】は別の所で仕事をすることにした。

 「一狩り行こうぜ!」

 


 

 

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