第81話 ドミー、ライナに温もりを与える

 「今後は【ドミー団】のドミー殿がCランク連合軍80人を指揮することとなる。命令にはきちんと従うように!」


 草原地帯に到着した夜。

 アマーリエから俺に、連合軍の指揮権が移譲された。

 特に事務手続きは必要ないので、連合軍の前で発表するだけの簡素な儀式だ。


 「今後は、俺が指揮を取ることになる。詳しい方針については明日発表するので、今夜は各自休息を取るように。解散!」 


 ある程度予想はついていたが、Cランク冒険者たちの反応は芳しくない。


 「ドミーさんは確かに素晴らしい功績をあげているけど…」

 「あたいらを指揮するというのはどうもね…」

 「そもそも、元々は同格のはずだろ?」


 公的には連合軍を構成する冒険者集団13個(【アーテーの剣を除く)の間に序列はなく、アマーリエとゼルマは非公式な元締めに過ぎない。

 それ故に、集団としての統率はかなり緩やかなものである。

 ケムニッツ砦の戦いではゴブリン残党の殲滅に成功しているが、これは待ち伏せや遠距離攻撃の徹底など、戦術点で大きく勝っていたからだ。


 最終的には【ビクスキ】による支配でまとめ上げる予定だが、そればかりに頼っていては王になれないだろう。

 また、もし俺が死んだとしても、軍としてしっかり機能するような組織にしたい。

 エルンシュタイン王の代になって効力を失った【守護の部屋】の例からも分かる通り、軍事力を代替できない個人に委ねるのは危険である。


 【ブルサの壁】の到着まで後2日の行程だが、残り日数は6日。

 差し引いて4日間で冒険者集団をまとめ上げ、ある程度軍として機能するよう訓練する。

 これが、俺の目標だ。



==========



 「…4日間と短い時間ではあるが、このような流れで行こうと思う。アマーリエとゼルマには多少負担となるが、頼まれてくれるか?」

 「むしろ、それぐらいの荒療治は必要でしょう。喜んでお引き受けします。ゼルマも良いな?」

 「期間が短いし、仕方ないわね。あたしも勤労意欲が湧いてきたし、いいわよ」

 

 というわけで、どのように訓練を進めていくか、打ち合わせを行っている。

 メンバーは【ドミー団】の3人とアマーリエ、ゼルマだ。

 ゼルマは俺の【ビクスキ】で目が見えるようになったため、複数人との会話も問題なくこなせるようになっている。

 

 「ライナとミズアは、このリストを本日中にきちんと覚えておくように」

 ライナとミズアにも役割を与えつつ、とあるリストを手渡している。

 「私、暗記は結構苦手かも…でも頑張る」

 「ミズアも、全身全霊を持って覚えます」

 「心配するな。俺も今から覚えるから、3人でなんとかしよう」

 頑張れば、1日でなんとか覚えられる分量ではあった。

 

 「俺に至らないところがあったら、みんな遠慮なく言ってくれ。それでは、解散」



==========



 「冷静に考えると、指揮権を奪われた形になるのよね、あたしたち」

 「そうだな。不満か?」

 「まさか。適任者に役目を譲り、自分の役目に専念する。それが最適よね」


 草原地帯の夜。


 私とゼルマは、【ドミー団】とは離れたところで火を囲んでいる。

 

 「それで、アマーリエの【クイック絶頂】ポイントはどこなのよ?」

 「私は肩だ。ゼルマは?」

 「あたしは頭。どうも困っちゃうけどね、あの感覚」


 常に寝食を共にするわけではない私とゼルマは、【クイック絶頂ポイント】を設定してもらった。

 必要に応じてドミー殿が触り、力を得る。


 打ち合わせでの別れ際に試してもらったが、なんとも言えない甘美な快感だ。

 …いろんな意味で、もう元には戻れない。


 「ねえ、アマーリエ。あたしたちは大人の役に徹するべきだと思うの」

 「大人、というほど年齢は離れてないがな」

 「結構年齢の話気にするわねあなた…」

 「冗談だ。要するに側に仕えるライナ、ミズアにはできないことをしようと言うのだろう?」

 「そうね。馬鹿にしてるわけじゃないけど、あの2人はまだ子供。場合によっては、あたしたちのフォローが必要かもしれない」

 「実際、まだ14、5歳の少女だしな」

 「昔のあたしたちみたいで嫌いじゃないけどね。さあ、もう寝ましょうか」


 そう言うと、ゼルマは、すぐに寝入ってしまう。

 私は、その寝顔を少しの間眺めた。


 「なあヒルダ、私でもいいのかな…」

 ぽつりと呟いた独り言は、草原の闇に消えていった。



==========



指揮官アマーリエ(【強化】後)


種族:人間

クラス:軍司令官

スキルタイプ:【支援型】

ランク:A

近接:83

魔法:25

統治:80

智謀:79

スキル:【ウォール】【ウォール・アドバンス】

個性:【鉄壁】【人望】【指揮】

服従条件:ゼルマと寝食を共にする

一口コメント:敵を殺傷する能力は低い


天網のゼルマ(【強化】後)


種族:人間

クラス:偵察兵

スキルタイプ:【憑依型】

ランク:A

近接:6

魔法:34

統治:57

智謀:69

スキル:【インサイト】【サイト・ビヨンド・サイト】

個性:【一心】

服従条件:アマーリエと寝食を共にする

一口コメント:強化されたスキルの運用に全てを賭ける


 俺は、忠誠を得たアマーリエとゼルマの能力を確認している。


 アマーリエは、ライナやミズアのように単騎で無双するタイプではなく、集団で行動してこそ真価を発揮する人間だ。

 スキルである【ウォール】の防御力を高める【鉄壁】、行動を共にする人間から信頼を勝ち得やすい【人望】、周囲の人間の戦闘能力を高める【指揮】が個性となっている。

 統治や智謀にも才があるため、文字通り司令官として活躍できるだろう。

 俺のスキルによって、新たなスキル【ウォール・アドバンス】も会得した。


 ゼルマはコメントの通り、希少なスキルの運用に長けている。

 【サイト・ビヨンド・サイト】は【インサイト】の上位互換にあたり、これまで以上に使い勝手が良くなった。

 個性の【一心】は静止状態でスキルの精度が向上するが、その際は誰かの護衛を必要とするだろう。


 「ねえ、ドミー。そろそろ寝よう?」

 「そうだな」


 ライナの呼びかけに応じ、ステータスの閲覧を終了する。

 草原の夜は冷えるので、焚き火をつけて毛布に身を包んでいる。

 それでも、十分とは言えない状況だ。

 ミズアは警戒に当たっており、およそ3時間後に俺と交代する予定だ。


 「くしゅん!」

 「大丈夫か?」

 ライナが少し寒そうにしていたので、俺は体を寄せた。

 「…」


 本当は肩を抱くぐらいはするべきなのだろうが、躊躇してしまう。

 強烈な感覚を与えてしまうのは、かえって迷惑だろう。


 「ねえ、触って…」

 「ん?いや、ここではな」

 「いや、そうじゃなくて」

 

 ライナは、こちらを笑顔で見つめる。

 

 「ゆっくりと触れば、そこまで変な感じにならないから」

 「…分かった、やってみる」


 ゆっくりと、慎重にライナの肩を抱く。

 少し震えたものの、ライナの様子に大きな変化はなかった。


 「あったかい…」

 「スキルも使いよう、という所だな」

 「違う」


 少し顔を赤くしながら、ライナは首を横に振った。


 「これは、ドミーのあたたかさだから…」

 そのまま、しばらくするとライナは寝入ってしまう。

 「すー、すー…」

 俺は起こしてしまわないよう慎重に肩を抱きながら、自分の毛布をライナに掛け、交代の時間を待つのだった。

 

 

==========


 次の日の朝。


 勢ぞろいした連合軍の前で、俺は重大な布告を発する。




 「突然だが、13個ある冒険団を全て解体する!!!」

 

 


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