旧約第5章 【ドミー軍】結成

第74話 ドミー、廃墟の街で臣下を得る

 「ふうん、数少ない男性の中でも、スキルを発現したと確認されたのは歴史上1人だけ。東の果てにある国トマヤ王国の王族マトタ、か…」


 -火照り。

 -体の痺れ。

 -倦怠感。


 【ハーレムの契り】から夜を通したビクンビ〇ンで疲れ切った私を覚醒させたのは、ドミーの静かな声だった。

 ムドーソ城内で購入した書籍ー確か【マクダ辞典】といったかしらーを読みふけっていた。

 雑多な記述を編集しきれていない粗悪品だけど、ドミーは気に入ったのか、暇があれば読んでいる。

 

 服、着ないと…。


 そう思ってシーツで体を隠しつつ立ち上がろうとするも、すでに【炎魔導のドレス】をまとっている状態だった。

 周りを見渡すと、ベッドの中心でとあるアイテムが置かれている。

 ドミーの【ビクスキ】のあれやこれやを元に戻す【復元の香炉】だ。

 香炉だけあって豊かな香りを放っている。

 

 「すー…」

 ミズアも【復元の香炉】で全て元通りとなっており、いつでも出られる状態で寝入っている。

 …昨日はあれだけ乱れていたというのに。

 自らの秘めていた想いから解放された喜びからか、私を巻き込んで大立ち回りを演じていた。


 「起きたかライナ。復元も済んだし、ミズアが目覚めたら出発しよう」

 「うん…ごめん、最後見張りをドミーに任せちゃった」

 「気にするな。その分、ライナとミズナの可愛い寝顔を堪能させてもらったぞ」

 「堂々と言うな!…しかし、その本読むの好きよね」

 「王を目指すというからには無教養ではいかんからな。それに…」


 ドミーは本を愛おしそうになでる。


 「雑多でまとまっていないが、とにかく後世に何かを残したいと感じる意思を感じる。そういう姿勢は嫌いじゃない」

 「要するに、野望にまい進する自分みたいだーって言いたいのね」

 「…恥ずかしいからミズアには言うなよ」

 「はいはい…ねえドミー」

 「何だ?」


 昨日の【ハーレムの誓い】によって、私たちの関係は新たな局面を迎えた。

 おそらくあと数人の女性が【ハーレムの誓い】を結び、ドミーと愛を共有するだろう。

 そこに嫉妬はない。

 ドミーの願いは、私の願いでもあるんだから。


 「大きくなってね」

 だから、私がドミーに掛ける言葉は一つだけ。


 ドミーが無血でムドーソ王国を占領できるよう、剣となって力を振るう。

 そして、野望を遂げたドミーがもたらす世界を共に見る。

 

 そのためなら…


 「あっ…」

 感傷に浸っていた私を、ドミーは急に抱きしめた。

 落ち着いていた鼓動が、再び早鐘のように鳴り始める。


 「もちろんだ」 

 優しい目でじっと見つめられる。

 「初めて出会ったパートナー、ライナと一緒に」

 「…もう。私は口説かなくていいのに」

 「何度だっていうさ。ライナを笑顔にするためなら」

 「…」


 やっぱり、この人には敵わないな…

 私は、ドミーとそっと口づけを交わしていった。



==========



 俺たち【ドミー団】とアマーリエ率いる連合軍80人は、改めてエンハイム城を出発した。

 ゼルマによると、【アーテーの剣】は【ブルサの壁】に向かっていったらしい。

 俺たちに抗しきれないと見たのだろうか、ゴブリン討伐の事後処理中に何も起こらなかったのは幸いである。


 それは良いのだがー、


 「ドミーさま!ライナ!ピンクの鳥が飛んでいますよ!可愛いですね!」


 ミズアのテンションが大分上がっている気がする。

 本音を話し合い、自分の感情を素直に解放できるようになったのだろうか。

 歓迎すべきことなのだろうが、1つだけ困りごとがある。


 「そ、そうだなミズア。しかし、少し距離が近いというか…」

 「何をいうのです、ドミーさま。常に【強化】状態で敵に備えるため、密着状態でいようと言ったではありませんか」

 ミズアはにっこりと笑う。 

 「うん、まあそうなんだけどな…」

 「あ、ここに咲いているお花も可愛いですよ!」


 左腕をがっちりと掴まれ、年齢の割に成長した胸を押し付けられるのはかなり心臓に悪い…


 当然ミズアは俺のスキルの影響を受けて快感を感じてしまうのが、お構いなしだ。

 顔を少し赤くしながら、それを積極的に喜んでいるように見受けられる。

 ミズアの熱が俺の肉体に伝播される感覚は、なんとも言えない感覚だ。



==========



 一定の人望を得た俺たち【ドミー団】は、これまでのように連合軍の目を盗んで乳繰り合う…ごほん、【強化】を行うわけにはいかなくなった。


 というわけで、「自然な状態で密着状態を保とう」とは言ったが、これは果たして自然なんだろうか?


 「ねえドミー、少しは私に体重を預けていいのよ?さっきからミズアの方にばかり、ミズアも負担よねえ?」


 ライナも参戦し、俺の右腕を掴んでくる。

 胸の感触は…ミズアほどではない。

 でも柔らかい。


 「そんなことはないですよライナ。ドミーさまはこのミズアがきっちりお守りします。朝方、ライナがドミーさまと口付けを交わした分までね…フフフフフ」

 「あら残念。ミズアがもう少し早く起きていたら、私だって独り占めする気はなかったのに。ウフフフフ」

 


 「姿は消さなくなったが、あの人たち何やってるんだ?」

 「【ブルサの壁】にピクニックでも行くんでしょ。壁に自分の名前とか掘っちゃうタイプ」

 「いたよねー、そんなやつ。めっちゃ怒られてた」

 「それよりさあ。最近、いつも周辺で聞こえていた甲高い声が聞こえなくなったんだ…やっぱり、あの人たちだよなあ」


 Cランク冒険者たちも、俺たちの変化を敏感に感じ取っているようだった。


==========



 このように多少の変化を伴いながらも、【ドミー団】と連合軍は【ブルサの壁】へと向かっていく。


 エンハイムを出て2日後には、先日ゴブリンを討滅した【イトスギの谷】を通過した。


 元来ムドーソ王国の国境線は【ブルサの壁】であるが、軍事力の弱体化や施設の老朽化による不安定化により、【イトスギの谷】から向こう側に人の住む街は現時点で存在しない。



 【ブルサの壁】からやってきた者を監視するために設置した小さな砦も、放棄されて廃墟となっている。


 【イトスギの谷】をトラブルなく超えた後に到着したイェーナも、廃墟となった街の1つであった。

 交易で栄えた歴史を持つとされるが、その面影はほとんど残っていない。


 そこでー、


 「ドミー殿。ゼルマとも相談しましたが、正式に貴殿の腕を握りたい」


 アマーリエから、念願だった申し出を受けた。

 要するに、俺の支配下に入るということである。



 

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