第59話 連合軍、一部を除きマンハイムに入城する

「もう我慢できない〜〜〜突入する〜〜〜」

 「アマーリエ、もう1日経ったぞ!!!いい加減にしろや!」

 「そうよ!そうよ!この万年Cランク!」

 「エリアルとヘカテーさまを待たせたら、承知しないんだから!」

 

 【ヘカテーの剣】が面々が私にストレスをぶつけるのは、何度目であろうか。

 まあ、話としてはわからないでもない。

 ドミー殿が期限とした1日は過ぎようとしており、再び夜を迎えようとしていた。


 だが、私は周辺の気配に変化が起こったことを、ゼルマから既に聞いている。


 ー周辺の伏兵、撤退したみたいね。


 ドミー殿はうまくやったらしい。

 「【スキル】の力を示せ」と偉そうに言った身ではあるが、流石に予想以上ではある。

 本当にやるかもしれんな、あの【男性】…


 その時、マンハイムの城壁に、3人の人物が姿を現した。

 その内の2人はすぐわかる。

 ドミー殿と、その配下のライナだ。

 もう1人は…確か【従者】のミズアとかいったか。


 「連合軍の者どもよ、お待たせして申し訳ない!」

 ドミー殿が、我々に呼びかける。


 「ただ今、マンハイムの市民と話がまとまった!このドミーが直接交渉し、入城が許されたので入られたし!」


 「あ、あのドミー〜が〜〜〜?」

 エリアルは動揺を隠せずにいる。

 

 「ただし!それには、条件がある!まず1つ目は、去年から未払いだった物資の費用及びの滞在費用、23895ゴールドを支払うこと!これは、このドミーが請け負う!」


 「なんだあいつ、勝手に支払うとか便利なやつじゃん」


 ヘカテーは安堵しているがー、


 「2つ目は、この地域を荒らしまわっているゴブリンの群れを討伐すること!出陣は2日後とする!」

 「な!?なんで勝手に決めてるんだよあいつが!」


 すぐに動揺へと変わる。


 「3つ目は、今回の騒動を引き起こした責任を取り、【アーテーの剣】の入場は許さないこと!それ以上は何もせぬ故、安心して野宿されよ!!!」


 ドミー殿は、ヘカテーとエリアルのプライドをこなごなに砕く一言を放ち、報告を終えた。



==========


 ぷちん。

 私は、ヘカテーとエリアルの脳の血管が弾ける音を、確かに聞いた気がした。


 「もう許さない〜〜〜!!!【フラッド】!!!」

 「てめえ…殺してやる!!!【雷槍】!!!」


 1つは洪水に匹敵する強烈な水流。

 もう1つは、電撃を帯びた長槍による突進。


 どちらも、ドミー殿を殺害せんと放たれた全力の一撃。


 だがー、


 「【フレイム】!!!」

 「【刺突】!!!】


 どちらも、傍にいた2人により容易に防がれる。

 「そ、そんな〜〜〜!」

 「ちいっ!」

 差は歴然であり、ヘカテーとエリアルは早期に離脱を余儀なくされた。

 【スキル】を使った戦闘だけは、両人とも勘が良い。


 「あんた達、今ドミーに何しようとした…?」 

 「確実にドミーさまを殺害する軌道でした。許せません…」


 静かな口調だが、ライナとミズアは激怒したようである。

 ヘカテーとエリアルは、自らに向けられた殺意に気づき、怯えた。


 「ア、アマーリエ!あんたも加勢しなさいよ!」

 「そうだ!!!あいつらを殺せ!!!」

 「それは、出来ぬ相談ですな」

 「何!?」

 「元々は、【アーテーの剣】の不始末が原因で起こった騒動ですぞ。野宿以外は罰を課さず、費用まで肩代わりすると宣言したドミー殿に、どうやって逆らえましょうや」

 「…」

 「…」

 「それとも、我らとも一戦交えるのですか?」


 2人は、10秒ほど沈黙した。

 そしてー、


 「あっ!待ってくださいよ!エリアルさま!」

 「ヘカテーさまも!」

 「なーんか、もう嫌になってきたな、このチーム…」


 ヘカテーとエリアルは無言で去っていき、【アーテーの剣】は散り散りになって逃走した。

 


==========



 俺はCランク冒険者80名を率いて入場した、アマーリエとゼルマを迎える。 

 「感服しました、ドミー殿」

 「これで、アマーリエさんからの宿題を1つ解けました」

 「と言うことは…」

 「あとは、自らの武を示すだけです。ゴブリン討伐で、なんとか条件を満たしたいと考えています」

 「底知れないわね、あんたは…」

 ゼルマは信じられないといった表情で呻いたが、嫌悪の表情は浮かんでいない。

 もう一息だ。

 

 「とにかく、アマーリエさんもゼルマさんも、今夜はゆっくり休んでください。費用はお支払いしております」

 この2人が率いていれば、大きな問題はないだろう。


 「かしこまった!」

 「やれやれ…」


 期待通り、2人が率いる80人は大きなトラブルもなく、無事に駐屯を終えたのだった。



==========

  


 「ドミー、怪我はない?」

 「ドミーさま。ミズアの働きに、ご不満はありませんでしたか?」

 「ああ、完璧だ」


 最後に、今日の功労者2人を労うこととする。


 「まったく、ライナとミズアは俺にもったいないぐらいのー」


 素直な感想を述べようとするが、近づいたライナに唇を指で止められる。

 もちろん体が少しビクビクと震えるがお構いないしだ。

 ミズアも、こちらに顔を近づける。


 「もう、そんなことを言う必要はないわ」

 「…そうです。ドミーさまは、ミズアたちの立派な指揮官です」


 「…ありがとう」

 この3人がいれば、どんな苦難を乗り越えられる。

 そんな気がした。


 「さあ、久々にパーっと過ごすわよ!ミズアは何が食べたい?」

 「えーと、ドミーさまの手料理を…」

 「いいじゃない!ドミーは結構いいもん作るのよ。ね?」

 「よーし、一丁やるか!」


 こうして、波乱の1日は、一旦幕を閉じるのだった。

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