噂の不時着機

晴れ時々雨

👾

森の中にUFOがあるという噂を聞いた。入ってはいけないと大人たちに釘を刺されている森だったが、僕たちにはこたえない。しかし目的を持って踏み入ることもなかったので深くまでは散策したことはなかった。湿った木々の枝を踏みしめなぎ倒された枝を掻い潜ると、その場にそぐわない建造物が見えた。

鬱蒼と荒れた自然の中に友達のじい様が所有する作業小屋くらいの大きさの、金属製らしい見たこともない建物が聳えていた。灯りがついていたので傍へ寄る。灯りの強さが増し、壁だと思っていたところが歪んで穴が空いた。その中に生き物がいる。一匹がもう一匹に食われるように頭を突っ込んでいる。

見てはいけないような気がしたが、あまりのことに身動きが取れない。生き物たちは、わおわおと音を出している。声、かもしれない。こんな鳴き声は聞いたことがない。いま壁の穴が閉じれば知らんぷりできそうなのに、閉じて欲しいような欲しくないような、結局そのまま見物してしまった。

すると二匹の声が共鳴し始め、僕は頭痛がしてきた。わおわおという音を聞いていると頭がぐわんぐわんして、目の前がぐるぐるしだした。僕は立っているのか飛んでいるのか回っているのかわからなくなり、しっかりしたくて足を踏ん張った。どん、と激しい物音がして、生き物の片方が口から出てきた。

僕ははっとした。今まで重なっていた二匹が離れ、顔のようなものをこっちに向けている。真ん中に空いた穴はうねうねと歪み、閉じようとしている。片方を食っていた方の頭がぶよぶよと膨らみ、所々ぼこんぼこんと出っ張ったり引っ込んだりしている。一言でいうと気持ち悪かった。

しかしやっぱり目が離せない。何となくだけど、あいつの頭のような物はこのまま膨れ上がって破裂するんじゃないかと思った。これは今までの人生の内で最高にグロい場面を目撃することになるんじゃないか。見ちゃダメだというのと、Don't miss it ! というのとで僕の心の軍配は見るに上がった。

頭が特大の漬物石みたいに腫れ上がったバケモノは、二匹が重なっていたときは灰色だった皮ふの色に汚い緑色が差してきた。それからぶよぶよが激しくなると段々と緑から赤っぽく変わってきて、今今破裂する!というときに一旦白くなった。白くなったというのは僕の視界だったかもしれない。

それは白く光って一瞬何も見えなくなり、ばこんという音の後、きゃわきゃわと何か細かい物が辺りに溢れ出した。白く濁った液体のようにそれはヤツの頭を破ってどばどばと体を伝う。よく見ると液体ではなく、液体から一粒ずつ分かれ、わらわらと走っている生き物だった。

さっきまで脳みそをぶるぶる震わせるように響いていた音が、速くて甲高い音に変わった。こまごまと動き回る白い生き物はたぶん子供だ。きゃらきゃらとさざめきながら辺りに散らばっている。ごちゃごちゃと動きながら粒は次第に大きくなり、見る間に手のひらサイズにまで成長した。ぱたぱたと足音がするそれらは二匹の周りを駆けだし、頭の破裂していない方のカイブツがみよんみよんと何かの合図をすると、建物内をてんで広がった。

僕はぼけらっと一部始終を見ていた。

子供に指示を出したあと僕に向かって、しっ、と強い信号を送ってきて、僕は衝撃で金縛りが解けた。

続けて、しっしっと電波が届き、よろけると目の前の壁の穴が閉まり僕は建物から追放された。


いた。

噂は本当だった。


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噂の不時着機 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

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