第2章 ~1万年遅れの2周目~

第4話 星の数だけ夢いっぱい


◆◇◆女神暦 1322年◆◇◆



 私の名前はミリオラ。

 魔法使いとして成長真っ盛りの16歳だよ。

 

 15歳の時、王国直属の魔法学院に奇跡的に入学することが出来たの!

 競争率が数百倍あるんだよ!? 凄いでしょ!?


 合格できたのが本当に夢みたいで、毎日起きる度に頬をつねったり、入学前なのに学院を見に行ったりしたなぁ。

 鏡の前に立って、長く茶色い髪をはためかせながら、私なりの決めポーズを考えてたっけ。


 そして入学式の時、私はようやく『一つ星(シングルスター)』になれたの。

 星は、魔法使いの証。星は、みんなの憧れ。

 立派な魔法使いになるほど、星の数は増えていくの。


 金色に輝く星を胸に、きっと私はこれから凄い魔法使いになると信じていたんだ。

 それこそ、勇者と呼ばれるほどに。


 でも、1年経っても私の星が増えることはなかった。

 それどころか私は今、絶体絶命のピンチに陥っているんだ――。


 ※


「まだ追いかけてくるの……!?」

 うっそうとした森を走り続けて、もう1時間は経ったのかな?

 途中でカバンは落とすし、木の枝に引っかかって服は裂けるし、最悪としか言いようがない。

 でももっと最悪なのは、逃げても逃げても執拗に追いかけてくるアイツらだ。


「俺は狩人~♪ 君は鳥~♪ さあ、お逃げ~♪ 俺の矢が君を射殺す前に~♪」

 上機嫌に歌いながら追いかけてくるのは、リーダー格のガジム。

 私の同級生で、学院内でもトップクラスの『三つ星(トリプルスター)』だ。


「疲れたろ? オレが特別マッサージしてやるから、こっちに来いよ」

「重そうな荷物ですねぇ。持って差し上げましょうか?」

 その後ろに続くのは、『二つ星(セカンドスター)』のナッシュとルーエン。

 舌舐めずりしながら、私の身体を舐め回すように見てくる。


 自慢じゃないけど、確かに胸は大きい方だ。

 ガジム達からよく、「胸の数字は増えるのに星は増えないな」、とバカにされるのが本当にイヤだった。


「うーん……そろそろ追いかけっこも飽きたな。【第一式 ストーン・ウォール】」

 ガジムはこともなげに魔法を唱える。すると、私の目の前に大きな土壁が現れた。


「しまっ……! あぅっ……!?」

 勢いそのままに、私はその土壁にぶつかってしまった。

 頭がクラクラしながらも、土壁を迂回して逃げようとする。――けど、無駄だった。ガジム達は、あっという間に私を取り囲んだ。


「くっ……! 【第一式 ファイヤー・ボール】!」

 私は掌に空気を集め、燃焼させる。手の平サイズの火球。これが今の私の全力だ。

 それを、油断しているガジムに向かって投げつけた。


「おっと、危ない危ない」

 まるでハエでも払うように、ガジムは私の全力を地面に叩き落とした。


「無駄だって分かってるのに、抵抗して楽しいかい? まぁ、君の気が済むまで抵抗すればいいさ」

「どうして……? どうしてこんなことをするの……!?」

 必死の訴えに対し、ガジムは首を傾げ、さも当然のように答える。


「どうしてって……君がそれだけ魅力的だからだよ。君が欲しくなった。だから手に入れたいと思った。何かおかしいかい?」


 ロマンチックなシチュエーションなら、どんなに魅力的なセリフだろう。

 だけど、ガジム達の目当ては……この身体だけ。私の気持ちも、心も関係ない。

 

「それに……『一つ星』の君が、『三つ星』の相手を出来るのは光栄なことだろ?」

 ガジムは、決定的な一言を放った。


 そう、星一つ違えば、奴隷と主人ぐらい身分が違う。

 『一つ星』が一般人だとすれば、『三つ星』は遥か格上――貴族ぐらい身分差がある。


 もしこのまま手を出され、私が罪を訴えても、ガジム達には何の罰も下らないだろう。

 逆に、ガジムの言ったように、こう慰められるに違いない。

 『三つ星』の相手を出来て良かったね……と。

 だから、私は必死で逃げた。興味を失うまで、どこかに隠れようと思っていた。……けれど、捕まってしまった。


「ちゃんとガジム様を楽しませろよ? 落ちこぼれの『一つ星』に出来るのはそれぐらいなんだからな」

「飽きたら、私たちにもおこぼれを下さいね。んふふ……」

 ナッシュとルーエンは、もう何度目か分からない舌舐めずりをした。


 どうしてこうなってしまったんだろう……?

 どうして私は『一つ星』のままなんだろう……?

 ずっと夢見てきた勇者に、なることは出来ないのかな……?

 諦めて、何もかも受け入れたほうが……楽なのかな……?


 ガジムの手が、私の身体に――。



「うわああああおおおおああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!」



 この世のものとは思えない絶叫が、森中に響き渡った。

「な、なんだ!? モンスターか!?」

 おぞましい叫び声に、ガジム達は怯え上がる。


 こんな叫び声をするなんて、絶対普通のモンスターじゃない。

 まるで……そう、身体中に縛り付けられた鎖を引きちぎるかのような絶叫。

 私は、おぞましい何かの復活を連想していた。

 

 嫌だ! 怖い! 誰か助けて!!


 けれど私は、身体が震えるほどの恐怖心とは別に、その叫び声に奇妙な親近感を覚えていた。

 まるで、私の気持ちを代弁しているかのようだったから――。


 ガジム達に無理矢理連れられ、警戒しながら叫び声がした方に向かう。

 すると、そこに居たのは……。


 私が落としたカバンからおにぎりを取り出し、一心不乱に貪り食う、ボサボサ頭の浮浪者のような男だった――。



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