坂鳥潤の自己満足
春野霖
独りよがりの青春を
第1話 とある幼女との問答
「ねぇ、お兄ちゃん。今日小学校でクラスの男子が喧嘩してたの。それを見ていたみっちゃんがね、『くだらないわね、早く大人になりなさいよ』って言ってたんだー。大人になるってどういうことなのかな」
時刻は夕方、すでに人がいなくなった公園で、ブランコに揺られながら真剣な表情で幼女はつぶやいた。
「難しい質問だね。お酒が飲める年になったら大人なのかもしれないのだけれど、僕の父さんなんか、よく鏡の前でヒーローの変身ポーズを決めているんだぜ? そう考えると年を取ったからといって大人だとは考えられないな」
というか考えたくない。
僕は隣のブランコに腰を掛けて質問に答えようと考えるが、幼女の好感度が上がるような答えはなかなか出てこない。だからといって何も答えを出さないのもアレなので、僕の考えを伝えよう。
「うーんそうだな、僕個人の考えになってしまうのだけれど、手の届く高さを知ってしまったとき、人は大人になるんじゃないかな。例えば
僕のお嫁さんって答えてくれても全然かまわないんだぜ?
「んーとね。公務員とね、カリスマモデルとね、人気ユーチュ〇バー」
おいおいまじかよ、流石は最近の女子小学生。お花屋さんとかケーキ屋さんじゃないのか。考えていることが僕の時代とは全然違う。
そもそも服装からしてなんだか違う気がするし。
黒くて丈の長いシャツは肩がオープンしていて、シャツの丈から少しだけ見える白の短パンは防御力が心もとない。髪もなんだかふわふわしていて、動きに合わせて動く姿が愛らしい。ボブカットっていうんだっけそれ?
最近の子は皆こんな感じなんのだろうか? そりゃあ紳士達も出没するわけだ。……僕は違うよ? 手を出したりはしないさ。まぁ、ジロジロと見続けるのは流石に失礼だし、話を本題に戻すとするか。
「なりたいものがたくさんあるなんて羨ましい限りだね。僕とは大違いだ。今なりたいものを色々と言ってくれたけど、もしかしたらその中には簡単に叶うものもあれば、頑張っても頑張っても叶えられないものもあるかもしれない。人はそういう経験をたくさんして、失敗して、自分にやれることがだんだんと分かるようになって、傷つきながら、ちょっとずつちょっとずつ大人になっていく。これが大人になるってことなんじゃないかと僕は思う」
どうだろう? 少しでも伝わっただろうか。
「ふーん。よくわからないけど大人になるって大変なんだね。私はしばらく大人にならなくていいや」
分かっているのか分かっていないのか、小鹿ちゃんは難しい顔をしながらそんな風につぶやく。どうやら僕の答えはあまり参考にならなかったらしい。
「でも高校生ってなんだか大人って感じがするよね。お兄ちゃんはあまりそうは見えないけど……なんだか友達もいなさそうだし」
小鹿ちゃんは漕いでいたブランコを止め、僕の方をじっくり見ながらそんな風に感想を漏らす。
まったく失礼なことを言う幼女だ。確かに誰もいない公園で、幼女と二人きりというこの状況を思い浮かべて見ると、否定することができないかもしれないが……
「小鹿ちゃんの思い浮かべる大人な高校生って、例えばどんな人のことを言うのかな? もしかしたら案外僕は、その大人な高校生っていうものに該当するのかもしれない」
「ハハハウケる。うーんそうだなぁ……勉強ができて面白くて、バイトとかしてて、クラスの男子みたいに女子をいじめたり、喧嘩しない人!」
「おいおいまるで僕のことじゃないか。いくつかの事に目を瞑れば、もうそれは僕といっても過言ではないね。これからは僕のことを大人なお兄ちゃんって呼んでくれてもいいんだぜ?」
「ハハハウケる」
そんな話を続けながら僕はふと、一人の男子高校生のことを脳裏に思い浮かべていた。授業を真面目に聞いている様子はなく、学校が終わるとすぐどこかに姿を消し、いつも喧嘩に明け暮れている、そんな一人の男子高校生を。
そういえば最近、彼が喧嘩をしている姿を見ていない気がする。周りに喧嘩が強いことが知れ渡り、誰も相手にしてくれなくなったのだろうか。
それとも
何か特別な理由が
そこにはあるのだろうか
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