【完結】星空へ去った人々へ ~Her master's voice~(全3話)
天野橋立
#1 人工流星の流れる夜空に
「サクラ! 遅いよ。ほら、急いで」
近所の住民たちが、ぞろぞろと歩いて行く通りの行く手。友人のココがわたしを呼んだ。彼女も、わたしと同じ
「うん、ごめん。すぐ行くね」
わたしも、右手を挙げて振り返す。慣れないユカタなどを着ようとして、両袖に腕を通すのに随分手間取ってしまった。ココは普通に半袖のシャツだ。
すっかり日は暮れているけど、通りの舗装はまだかなり熱を持っているようだった。
「わあ、ステキ! とっても似合うね」
苦労の甲斐あって、彼女はわたしの桃色のユカタをすごく褒めてくれた。これは元々、亡くなったひいおばあちゃんが着ていたものだ。わたしのふわふわした白い毛に、ぴったりの色。ひいおばあちゃんの毛色も、わたしと同じく真っ白だったそうだ。
「一緒に歩くの、嬉しいなあ」
と、何だか大喜びで尻尾を振ってくれているココと並んで、会場へと向かった。
「
わたしたちの住む、世界最大級の
「あ、流れた。今度は緑色だ」
ココが、顔を上げて空を指し示す。先ほどと同じような光が星々の合間を走って行った。続いて、青・紫・黄色と、立て続けに人工流星が流れる。
「
彼女が言った。
「
かつて、
そして、
星を去るに当たって、
自分のパートナーだった
年に一度、
「あの人工流星には、『自分たちは必ず帰ってくるよ』っていう「
母親にそう聞いたことがある。
ひいおばあちゃんは、命が尽きる最後の瞬間まで、優しかったパートナーの帰りを待ち続けていたらしい。「フェアウェル・メッセージ」を繰り返し再生し、窓から見える星空を見つめながら、彼女はこの世を去った。このユカタも、そのパートナーがわざわざ特注で作ってくれたものらしいのだ。なんて寂しいことだろう。
「なぜ、帰って来てくれなかったんだろうね、開拓者さんたち」
わたしの話を聞いたココが、ユカタを見つめながらそう言って、悲し気にクーンと鼻を鳴らした。
「こらちょっと待て、まだ帰って来ないって決めつけちゃだめだよ。そのためのお祭りでしょ」
わざとわたしは、明るい声を出した。みんなで落ち込んでいたら、余計に開拓者の人々は帰って来ないのではないか、根拠はないらしいけど、そう言われている。そのために、彼らが帰ることを祈念するお祭りが、盛大に開催されるのだ。
「いっけなーい。だよね、みんなで楽しくお祈りしないとね」
舌をちらりと出して、ココは笑顔に戻った。
(#2「奇跡の宇宙船」に続く)
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