10月4日(火) JK、暖を取る

「うあ゛!」


 体中をゾワゾワっとした感覚が駆け巡る。思わずうめく。


 つっめたっ、冷たっ!?


 川の流れが余計に肌を冷やす。体が震える。


 あ、ヤベ、これ入らない方が良かったかもしれん。風邪引く、これ絶対風邪引く。

 

 川の中で体を丸め、温めようとする。多分、すぐ上がるべきなのだろうが、せっかく勇気を出して入ったのだ。

 どうせなら体の汚れを川に落として貰おう、なんて勿体無い精神が働いた。自分でも馬鹿だと思う。けど、汚れたまんまでいるのも嫌だ。


 体の汚れてそうな部分をゴシゴシこする。脇とか膝の裏とかお腹とか。

 顔もバチャっと一瞬だけつけて、バッと立ち上がった。


 もう無理!


 そして、焚き火へとダッシュした。もちろん素っ裸。うん、私JKどころか女としてもダメかもしれん。


 けどな、無意識やってん! 仕方ないねん! ……アレ、無意識でそんな行動する方がおかしいのでは?


 ……アッ……察しました。


 火がとにかく暖かい。ガクガクと震える体をゆっくり温めてくれる。あ~あったけぇ〜!

 

 草が直に体全体に当たっていて、それはそれは気持ち悪いが、まぁ今はそれより暖を取りたい。寒いです。きっと今の私の唇紫色です。

 

「うおっ」


 ファサッと体に何かが掛かった。……布? 布だ。タオル代わりに私が持ってきた布。

 後ろを振り返ると、布の端を持ったカラス。


「あ、ありがとう」


 ……ごめんカラス。素っ気ないは取り消すわ。


 お前っ、めっちゃ良い奴やん! めっちゃ気ぃ使ってくれるやん! ありがとう。ほんまありがとう……!

   

 髪を絞って、布で髪、体と拭っていく。雫がぼたぼたと土を潤した。絶対に座らんようにしよ。

 座ったら体中土まみれになるのは目に見えてる。

 

 ……体拭けたしそこそこ乾いたし、さすがにもう服着よう。

 人目はないものの、ずっと外で裸で居ると変態になったみたいでなんか………ヤダ。というか、風邪引く。

 

 焚き火から離れ、服の置いてある川の近くへと戻る。

 

 ……そうだな、制服を洗濯するかは置いといて、まずこの多分女性用の服を着よう。

 ……下はともかく上の下着っぽいものが無かったのが気になるんだけど……この際仕方ない。包帯みたいな帯もって来たからこれをさらし替わりに使おう。……やったことないし痛いし形崩れるって聞いたけど……この状況下だ。それでもやるしかない。べつに潰さないといけないっていう訳じゃないし。


 試行錯誤しながら布を巻いたり服のボタンを止めたり、ズボンの紐を結んだりする。……これである程度、できた……か?

 

 ……ただ、一つ確信できる。


 絶 対 ダ サ い 。

  

 ……ま、まぁまぁまぁ! 服があるだけマシと思おう! ウン!


 これで服なくて汗臭い制服ずっと着ないといけない方がキツイし! てかそもそも見る人居なけりゃダサいも何もないし!






 …………で、そうだそうだ。制服をどうにかして洗わんといけないのか。


 考えを切り替えようと、洗濯について考える。


 とにかくあのオレンジっぽい実は持ってきたから試してみようと思うけど……確か皮の油? みたいなのが汚れを落とすのに使えたはず。これが柑橘類だったら、の話だけど……。


 まず、折りたたみナイフで皮に切れ目を入れて、ベリッと剥いた。皮の裏はグレープフルーツみたいにファサファサしてて、中身は……うん、柑橘類っぽいツブツブな果肉だ。それに匂いもフレッシュでそれっぽい。


 ……そして、皮の表面を爪で傷つけてから折りたたみ、それをさっき体を拭くのに使った布につけてみた。……もし皮の色が制服に移ったら嫌だもんね。実験だよ、実験。


 ……結果としては……色は特になさそうだ。そして汚れが落ちている気配もない。……そもそも汚れていなかったのかもしれないが。

 

 ……まぁ色がないのなら、本物で試してみるかぁ……。

 

 制服の汗臭そうな部分に皮を擦りつけ、ゴシゴシ擦ってみる。べつに泡立つ気配はないし、泡立つとも思ってない。そう、私にとっては臭いさえ取れれば十分なのだ。あと、ついでに殺菌も。

 

 水沸かして浸けたら殺菌作用とかあるのかなぁ……?


 擦ったあと、川につけゆすぐ。乾かすのはもうあの大樹の小枝にでも干してればいけるんじゃないか?

 

 そして、皮をこすりつけゆすいだ部分の臭いを嗅いでみる。……うん! 臭い取れてる! それに心なしかフレッシュな香りになってる気が……。

 

 洗ったばかりだから臭わないだけかもしれないが、この臭いが乾いた後まで持続していたら……使えるかもしれない。

 思わず笑みをこぼす。

 

 

――――もしかしたらこの世界で生きていけるのではないか、なんて、その時の私の中には少しの希望が生まれてきていた。

 


 

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