第87話 『CHARMUSE』のドリーマー発掘クラブ!
家庭科室の外に大勢のギャラリーがいる中、タイトルコールの撮影から始まった。
「『CHARMUSE』のドリーマー発掘クラブ! イエーイ!」
タイトルコールと共にわたしたち手芸部員は拍手を響かせた。
わたしは少し心配で梓先輩の方を見ると、完全に顔が強張ってしまっていた。
対して、お姉ちゃんとうららさんは全く緊張感を感じさせない。
さすが国民的アイドル、踏んできた場数が違うなー。
「ではさっそく始めさせていただきますね」
うららさんの落ち着いた進行で、取材がスタートした。
「事前に頂いたアンケートによりますと、『手芸部に入って大変だった事』にほとんどの方が『収納』と書かれていました」
「え~っ、収納~? どうしてどうして~?」
するとお姉ちゃんは不思議そうに首を傾げながら梓先輩の方を見た。
「部長さん、教えて~?」
「えっ、俺!?」
梓先輩は驚いたように自分を指差して、助けを求めるように振り返った。
だけど他の先輩たちはちょっぴり意地悪だった。
「ご指名だよ、新部長!」
「羨ましいなぁ、新部長!」
梓先輩はものすごく恥ずかしそうに項垂れたけど、お姉ちゃんがフォローしてくれた。
「緊張しなくて大丈夫だよ~、カッコいいとこだけ編集するから~!」
お姉ちゃんの言葉に梓先輩は戸惑いを隠し切れない様子だった。
だけどようやく腹を括ったのか、深呼吸をして答えた。
「そうっすね……めちゃくちゃ大変っすね、収納は」
「へぇ~、なんか意外だな~。収納のどういうところが大変なの~?」
お姉ちゃんの質問に梓先輩は口籠ってしまった。
見かねたわたしは梓先輩の代わりに、お姉ちゃんたちに丁寧に説明した。
「わたしが説明しますね。まず、何か編みたいものがあるとするじゃないですか。最初はその作品の為だけに買うんですけど、だんだん編みやすい毛糸とか、自分のお気に入りの毛糸とかが出来てくるんですよ。百均や手芸店に行く度に毛糸だけが増えていって、収納スペースがどんどん無くなっていっちゃうんですよね~」
「まあ、大変! 収納の悩みは手芸部あるあるなのでしょうか?」
うららさんの言葉に今度は他の先輩方が頷いた。
「そうなんですよー! 綺麗な毛糸だと糸玉の状態も可愛くって、どんどん増えてっちゃうんですよね! しかもシーズンごとに新しい毛糸がどんどん出てくるし!」
「まさに罪庫(ざいこ)って感じだよね! マジで売るほどありますもん!」
「そして編み終えたあとに出る大量の余り色も断捨離するか、活かすかで迷っちゃうんですよね~」
普段、部員以外とはなかなか出来ない編み物トーク。
うららさんは先輩たちの勢いに押されて唖然としてしまった。
だけどお姉ちゃんは、初めて見る世界を見つけた子供みたいに、目をキラキラさせた。
「確かに毛糸ってふわふわしてて可愛いもんね~! さっき皆の作品を見せてもらったけど、手作り感があったかくて可愛かったな~!」
「お二人とも、もし好きな作品があったら差し上げますよ?」
篠原先輩がお姉ちゃんたちに言うと、お姉ちゃんは感激したように喜んだ。
「えっ、いいの!? やった~っ、めっちゃ嬉しい~っ!」
「ありがとうございます。よろしければ他のメンバーの分もいただいてよろしいでしょうか?」
「もちろんですよ!」
先輩たちが盛り上がっている間、梓先輩がわたしを肘で突っついてきた。
わたしは振り返ると、梓先輩は申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「助かったぜ。ありがとな」
「いえいえ」
わたしは微笑んで小さく呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます