そのドミノを倒すのはあなた

ちびまるフォイ

まっすぐに並んでしまったら

家の前の道路にドミノが置かれていた。


「っと危ねっ! 倒すところだった」


あわやというところでドミノを蹴っ飛ばしそうになった。

なにかのチャレンジでもやっているのかと周りを見渡したが誰もいない。


「どこにつながってるんだ……?」


並べられたドミノは見えなくなるほど遠くまで続いて果てが見えない。

どこからつながっていて、どっちの方向がゴールなのかもわからない。


きれいに整頓されたドミノを見ていると、自分の中で倒したくなる気持ちが湧いてくる。


「……風が吹いて倒れたってことにすればバレないよな」


屋外にドミノを並べていればさまざまな理由でドミノが倒れるだろう。

自分が倒したことなんてわかりっこない。

もうすでに見えないところで倒れはじめているかもしれないし。


「えいっ」


一番近い場所のドミノをはじいて倒した。

パタパタと歩くほどの速さでドミノは倒れていく。


倒れるドミノにくっついて成り行きを見守っていく。


「すごいすごい。ちゃんと倒れてる。丁寧に置かれてるんだなぁ」


パタパタとテンポよく倒れるドミノを見ていると気持ちがいい。

ときたま、ドミノ板だけではなくサッカーボールなどもドミノの列に加わって変化をつけていく。


目でドミノを追っているだけなのに飽きがこない。


「……あれ?」


ずっとドミノを見ていたせいか気づいたことがある。

少しづつ、ドミノの列が進むにつれてドミノの板が大きくなってきている。


最初に自分が倒したときは手のひらサイズだったドミノ板は、

板チョコほどの大きさまで大きくなりながら倒れている。


いったん足を止めて、倒れた後のドミノ2つを拾い上げた。


「なるほどなぁ。ちょっとずつ大きくなっていたのか」


パッと見は同じサイズに見えたドミノも、

重ねてみるとほんのわずかの差で先に並んでいるドミノが一回り大きくなっている。

ドミノの列が進行するほどに板も大きくなるだろう。


きっとこのドミノの果てで芸人さんが熱湯風呂の前に立たされ、

ドミノに押されてどっぼーん。

そんな番組のひとつの仕掛けなんだろう。


「ふふっ、楽しみだ。最後まで見届けるぞーー」


小走りで倒れるドミノに追いついた。

すでにドミノはひざ丈ほどの高さまで大きくなっていた。


ドミノ板の重量も増していて最初のころのパタパタなんてカワイイ音はしなくなった。

バタンと強めにドアを締めたときのような音が連続する。


バタバタバタ……。


ドミノは一度も止まることなく倒れていく。

列が進むほどにサイズが大きくなり、成人男性ほどの板にまでなっている。


うっかり指でもつぶされそうものならひとたまりもない。


ドスンドスン、と巨人の足音のような音と一緒にドミノは倒れていく。


「本当に撮影なのか……?」


どこを見渡しても未だにカメラもギャラリーもいやしない。

ドミノの終点もまだ見えない。


仮に、最果てで芸人さんがスタンバイしているとしても

今この状態で見えていないとなると、どれだけ巨大化したドミノに押されることになるんだ。


もうギャグでは済まない大事故になるんじゃないか。


そう思いはじめるとギネス記録やテレビ番組の収録じゃないと思い始める。

ドミノ板はもう電話ボックスほどの大きさになっている。


ドミノ板に割って入って止めることも出来ない。

止めようとすればぺしゃんこにされるだろう。


ドミノ板というよりは壁に近い高さになったドミノはさらに膨張を続ける。


本棚ほどの高さにまで大きくなったドミノはまるで暴走機関車だった。


みちみちに詰まった重い板が倒れてくるのだから、

下敷きになった車や自転車はバキバキに潰されている。


「これやばいんじゃないか……」


嫌な汗が流れる。

これだけの大きさになってもなお、ドミノの果ては見えない。

ドミノは延々と続いている。


ドミノの列が続くほどのドミノは巨大化していく。

すでに危険なのにこれ以上大きくなったら……。


「これ以上ドミノを進ませるわけにいかない!

 なんとか途中で止めないと!」


ドミノ倒しを防ごうと、車をかっ飛ばしてドミノの先へ向かう。

巨大化したドミノは電柱ほどの高さにまで大きくなっている。


「倒れるのを阻止できなくても……ドミノ倒しは防げるはず……!!」


必死にドミノとドミノを橋渡す1つを横にスライドさせようと力を込める。

均等に並んだドミノ板の間のドミノを1個抜けば途中で止まると思った。


でも上に引っこ抜くことは重くてできない。

ならばせめて横にスライドさせて避けようと思ったが甘かった。


ドミノに追いつかれまいと先回りしたものの、先にいくほどドミノはでかくなる。

横へスライド移動することすら難しいほど巨大になっていた。


「ふんぬっ!! ぜ、ぜんぜん動かねぇ!」


必死にドミノ板を横から押していると、ドバンと爆発するような音が迫ってくる。


「おいあんた危ねぇぞ!?」

「うわっ!?」


後ろにいた人に襟首を掴まれて引っ張られた。

その瞬間に目の前のドミノ板が倒れてドミノの先頭が横切っていった。


「あんた、もう少しで下敷きになるところだったぞ」

「それよりもドミノが!!」


命の恩人に感謝を伝えることもそっちのけでドミノを追った。

ドミノはさらに巨大化して高層ビルのような高さになっている。


「う……うそだろ……」


ドミノの列の間には、都会の高層ビルが挟まれていた。

ドミノ板が高層ビルに直撃すると、ビルはぐらりと横に傾く。


ガラスの雨を地上に降らせながらビルは次のドミノ板へと倒れ込む。

ビルに押されたドミノ板はまた次のビルを倒していく。


地上にいた人はドミノ倒しされていく高層ビルから逃げ惑うように地下へと避難する。


ビルが倒され、建造物が壊され、電波塔が崩されていく。


「誰か! 誰かあのドミノを止めてくれ!!」


すでにドミノは制御不能だった。

あらゆる建築物を倒して破壊するさまは災害そのものだった。


「俺が……俺があのときドミノを倒していなければ……」


もっと早くにドミノを止めていればこんなことにはならなかった。

後悔してもドミノは止まらない。


これだけ巨大化してしまったら、途中のドミノを抜いて止めることも出来ない。

まさに万事休す。


そのとき、頭にあるアイデアが思いついた。


「そうだ! 途中のドミノを抜かなくても止める方法がある!!」


ヘリポートに向かいヘリを勝手に操作する。


「君! それは大統領の避難用ヘリだぞ!!」


「黙って貸せ! これ以上に大きくなったらもう止められないかもしれないんだ!!」


ヘリを使ってドミノの先頭へと向かう。

まだドミノが倒れていない場所を見つけるとヘリを突撃させて、パラシュートで脱出。


「いっけぇぇーー!!」


操縦士を失ったヘリはそのまま直立しているドミノ板の頂上に直撃。

ヘリが大爆発すると、衝撃を受けたドミノ板はぐらぐらと前へ後ろへと揺れた。


「そのまま倒れろ! 倒れてくれーー!!」


今以上にドミノ板が大きくなったらヘリの爆発程度じゃ傾かなくなる。

これが最初で最後のチャンス。


前後に揺れたドミノはついに進行方向とは逆の向きに倒れていった。


追いついていくドミノの列と、ヘリで倒したドミノ板は正面衝突。

重低音を響かせながら共倒れになり、ドミノ倒しはそこで途絶えた。


「やった! やったぞ!! ドミノ倒しが止まった!!」


ドミノが止まると避難していた人たちも地下から出てきた。

まるで空爆でもされたように瓦礫の山になっているビル群を見て言葉を失っていた。


「みんな、壊れたものや失ったものばかり目を向けちゃいけない。

 見ろ。ビルがなくなって空があんなに広く見えるじゃないか。

 よくなったことに俺たちは目を向けるべきなんだ!」


地下の人たちを元気にするために声をかけた。

すると、言葉が響いたのかみんなが空を見上げる。


「そうだよ。この青空の下でまた町を作り直そうじゃないか!」


カッコイイ言葉を言いまくる俺に対して小さな子どもがツッコミを入れた。


「お兄ちゃん、あれ見えてないの?」

「あれって?」


少年が指差す方向に顔を向けた。

青くすみ渡る空の一点に、なにか丸いものが見えていた。


「……なんだあれ? 見えないぞ?」


目をこらしていると、誰かが点けたラジオの音が聞こえてきた。



『どういうわけか地球の直線状に惑星が並んでいます!

 そして今、地球はより大きな惑星に接近しています!

 地球のみなさん、早く避難してください!!』



空に見えていた小さな丸い点はどんどん大きく見えてくる。

青い空が惑星の壁面で埋め尽くされるほどになったときすべてを諦めた。


「ドミノは終わってなかった……」


地球がひとまわり大きい惑星にぶつかると、

押されたその惑星は直列にならぶ次の大きな惑星へと接近していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そのドミノを倒すのはあなた ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ