第142話「予定は未定で②」

「王族? 虫使い?」


 きょとんとしたのはアインだけで、ウルスラは苦い顔になる。


「メンドクセー展開になっちまったな。いくら風連坂がいるからって安心はできねーぜ」


 彼女はある程度のことは知っているようだな。

 蛍がいても立ち回りをミスったら死を覚悟するリスクがあるって認識は間違ってない。


「で、どうすりゃいい? 風連坂をつっこませんのか?」


 ウルスラが油断なくナイフをかまえながら聞く。


「それはダメだ。蛍がいないと俺たちは物量に押し切られるだろうよ」


 と答えてから彼女に聞く。


「この際、少々地形に被害を与えてもかまわないだろう。ただ、できれば火属性以外で頼みたいんだが」


 ここで火が燃え広がったらマジでシャレにならない。

 森に被害を与える以前に俺たちも死ぬ危険が出てくる。


「距離がある相手と戦うなら風が一番得意ですが」

 

 蛍の自己申告を信用しよう。


「風で広範囲の敵を削っていく感じで。大物が後にひかえてるつもりで戦ってくれ」


 たぶん王族だろうし、蛍なしで王族戦は勘弁してほしい。

 シェラかフィーネがいれば話は別なんだけど、ないものねだりをしたって何も変わらないからな。


 俺としてもできれば大物の時までポーションは温存しておきたい。

 だが、蛍という最大戦力を温存するほうが大事なので、ぜいたくは言えないと思っておこう。


 幸いなことに第一波は三年だけで対処ができている。

 先輩たちが疲れる前に一回交代しておこうか。


「エドワード先輩交代しますよ」


「ん? そんな指示は出てないぞ」


 エドワードはふり返ってグレックを見る。

 彼はわたわたして決めかねているようだった。


「……もうそんな場合じゃなくなってしまったと思います」


 全員の命がかかってる時に二年に経験を積ませるとか言われたくないんだよな。

 

「そうだな。わかった、ありがたく休ませてもらおう」


 三年たちはそう言って下がり俺たちが前に出る。

 左からデカいクワガタが五匹、真ん中に巨大テントウムシ六匹、右側にトンボとカマキリが三匹ずつという形だ。


 少し離れたところにも敵の数はまだいるようなので、これはおかしいな。

 なぜ数十匹同時に襲わせない?

 

 そうすればこっちは逃げるしかない。

 虫の知能の限界だろうか、それともそういう戦い方をせざるをえない事情でもあるんだろうか。


 虫使いの可能性は低いと勝手に決めつけていたが、こういう不可思議なことをするのは人間の場合のほうが多いんだよな……別の選択肢も検討しておこう。


 左側と真ん中を蛍が一人で受け持ち、右側を俺とアインとウルスラが三人がかりで対処する形だ。


 俺が石とポーションを投げて敵を牽制している隙にウルスラが攻撃し、彼女をアインが守る。

 

 これが俺たちの基本戦法なんだが、俺たちが三匹倒す間に蛍は受け持った虫を全滅させてしまい、俺たちのところへ加勢にきた。


「風光一刀流・嵐刃」


 見えない刃の嵐が巻き起こり、まだ残っていた虫たちの体はバラバラになる。

 あまりにも圧倒的な差だし、蛍は少しも疲れていない。


 大物と戦うために力を温存してほしいという俺の要望に従っているのだ。


 力の差がありすぎると数の暴力なんてものは存在しない。

 ただただ個人に無双されるだけ。

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