第95話「そのままでいいんだよと言われても」

 蛍が無事に試練モンスターを再度撃破し、ウルスラも第六階層に到達できるようになったわけだが。


「やっぱり前回、蛍は手を抜いてたか」


 今回は完全なる圧勝劇だった。


「エースケ殿なら気づかれたかなと思い、隠すまねはやめました」


 蛍はちょっと申し訳なさそうな顔で答える。


「おかげで試練モンスターと戦う雰囲気を味わえたからいいや」


 そう言うと彼女はほっとした。


「エースケ殿は本当に心が広いですね。すばらしいリーダーだと思います」


「ほんとになー。ナメられた、バカにされたってみだりに騒がないやつってありがたいね」


 蛍どころかウルスラまでもが参加してきたのには、困惑を隠せない。


「褒めても何にも出ないぞ」


 ウルスラにくぎを刺しておく。


「いや、器のでけえリーダーでいてくれたらそれでいいし」


 彼女は笑いながら言う。

 そこまで深い考えがありそうじゃなかった。


 アインをちらっと見ると、


「エースケ、あきらめが肝心だよ?」


 なぜか優しくさとされてしまう。


「あきらめなきゃいけないようなことはしてないはずだが」


 反論すると、


「えっ?」


 アインにきょとんとされ、


「はぁ?」


 ウルスラにぽかーんとされ、


「……エースケ殿の中ではそうなのでしょうね」


 蛍は理解ある態度で微笑むという展開が待っていた。

 え、何、どういうこと?


「なあ、アイン」


「言わないであげて」


 ウルスラとアインの間でナニカが成立していた。

 二人が蛍をちらりと見る。


「エースケ殿の場合は美点だと思いますよ?」


 彼女は二人に笑顔で言った。

 場の空気的に彼女は俺を擁護してくれたらしいことは理解できる。


 だが、どうしてこうなってるのかがよくわからん。

 あれ、俺って鈍感系キャラだったっけ?


 しきりに首をひねる俺にアインが話しかけてくる。


「エースケ、このまま第六階層に行くか、いったん引き上げるか決めてくれないかな」


「撤退だよ!」


 俺の判断に三人は迷わず従ってくれたが、釈然としない思いは残った。


 地上に生還するとダンジョン探索部とすれ違う。

 彼らは俺たちの顔を知らないメンバーだったから、適当に目礼だけしておく。


「ダンジョン探索部ももぐってんのなー」


「入ろうとは思わなかったの?」


 ウルスラにアインがたずねる。

 俺も聞いておきたかったからちょうどいい。


「あいつらの部長がえらそうでやな感じだったからなぁ。そんな先輩やだろ?」


 とウルスラはあっけらかんと言い放つ。

 なるほどな、一理あるし彼女らしい。


 それにしてもダンジョン探索部は部長のせいで蛍、ウルスラ、アインの三人を逃したことになるのか。


 プレイヤーやってた観点からすりゃありえない大損害なんだけどな。

 彼に知るすべがないことだから言っても意味ないか。


「たしかにいやな感じはしたね」


 アインは同調したが、蛍は沈黙を守る。

 ウルスラは俺たちをちらりと見たが、同意を求めてはこなかった。


「ノヴァク殿が入ったことで宝箱を今後はとれるようになるでしょうか?」


 と蛍が俺に話しかけてくる。


「宝箱が出るのは第六階層からだしな。その点でもいいタイミングだったとは思う」


 俺が応じると、


「あっ、だからローグって言ってたんだ」


 アインはようやく納得がいったと手を叩く。


「アインはまだまだ鍛える余地がありそうだな」


 ニヤッと笑うとアインはなぜか 蛍が無事に試練モンスターを再度撃破し、ウルスラも第六階層に到達できるようになったわけだが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る