第92話「気をつけろ」
「壊すだけならできますが」
なんて蛍は言う。
「壊すのはダメだろ……壊れると事態が悪化するトラップってけっこうあるって聞くぜ?」
とウルスラはあきれた声を出す。
俺もこの点は彼女に賛成だった。
罠が壊されるのが発動条件、なんて罠だってあったからな。
「それについては俺も賛成だ。壊すのはひかえてくれ」
「はい」
横から口を出した俺の言葉を蛍は受け入れる。
本気で罠を壊して回ろうと思っていなかったんだろうな。
彼女は基本的にかなり常識的な性格だ。
「罠対策については基本ウルスラに任せられたらと思ってる。壊すしかない状況になってしまった場合は、蛍の出番になるが」
そんなやばい局面はそうそうないはずだが。
「それが妥当だな。そうならないように働かせてもらうぜ。まだ死にたくないし」
とウルスラが言ったのはもっともだ。
学園にある探索ダンジョンだって下の階層に行けば、けっこうやばいやつが出てくるからな。
「今日はこの後どうするんだい? 第三階層に行くかい?」
アインの質問にまずウルスラが反応する。
「ちょっと待ってくれよ。あんたら何階層まで行ったんだ?」
「おっと」
アインはしまったと自分の口をふさぐ。
「第三階層までなら行けるよ」
俺はしれっと答える。
ここは隠しごとがないという態度のほうがいい。
「ふーん」
ウルスラは俺たち三人をじろじろと見る。
蛍は見事なポーカーフェースでまったく感情を出さないが、アインがかなり苦しいな。
「まあいいや。ボクはまだお試しなんだし、話せないことがあるのは仕方ねーさ」
ウルスラは肩をすくめて自分がのけものに近い状態になってることを受け入れる。
「正式メンバーになったら……」
アインは言いかけてちらっとこっちを見たので、俺は黙ってろと身振り手振りで伝えた。
「気持ちはありがてーけどやめとけよ、アイン。おめえの評価が下がっちまうぜ?」
ウルスラは明朗な笑顔で言い、アインの左肩をバンバンと力強く叩く。
「う、うん」
アインが表情をゆがめたのはたぶん痛みのせいだな。
「ウルスラを入れてアインを切るという選択肢も一応あるから、アインは気をつけろ」
「わ、わかってるよ」
俺の忠告にアインは何度もうなずいた。
気づかないほど彼は馬鹿じゃないし、今後は改められるだろう。
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