第93話「うちのパーティーで一番やばいのは蛍じゃない説もある」

 第三階層で何回か戦闘をこなしたところでウルスラが口を開く。


「やっぱり風連坂とエースケのドロップは変だな。装備してる腕輪の効果かい?」


「そうだよ」


 積極的に教えるつもりはなかったが、気づかれたなら認めてもいい。

 そう判断して俺は答える。


「さすがに気づくか」


「へへん、馬鹿にするのはやめてもらおう」


 褒めるとウルスラは得意そうに笑い、鼻の頭を右手の指でこすった。


「あんたら思ってたよりもスゲーんだよな。これ、ボクって不釣り合いじゃないのかな?」


 ウルスラは急に真顔になって心配そうに言う。


「そうでもないぞ?」


 俺が言って蛍に目を向ける。


「蛍はどう思う? 遠慮なく言っていいぞ」


 と言ってもおそらく本音全開にはならないだろうな。

 それでも言うべきことは言ってくれるだろう。


「ノヴァク殿は非常に重要な戦力でしょう。今はそれがしが先行しているように感じられますが、いずれ追いつかれるでしょうし、そうなるとそれがしの負担も大きく減ると感じます」


 べた褒めだった。

 俺が予想していたよりもずっと評価が高い。


「お、おう……」


 これにはウルスラもあっけにとられている。

 アインも言葉が見つからない様子でぽかーんとしていた。


「ウルスラさえよければ正式加入ってことでどうだ?」


「……エースケはいいのかよ?」


 俺の勧誘に対してウルスラは質問を返してくる。

 子犬が仲間に入れてもらいたそうな顔に見えて、怒る気になれない。


「うん。もとよりローグを入れたいって言ったのは俺だし、ウルスラにはすごい期待できそうだし。……上からに聞こえたらごめんな」


「いや、入れてもらうのはボクだし、審査されるのは当然だろ」


 ウルスラは俺の謝罪に気にしないと応じる。


「けどよ、もうちょっと時間をかけられると思ったんだよな。決断がはええな、あんたら」


 そして感嘆した。


「ダメだったらその時また考えればいいからな」


 現段階、判断をミスっても取り返しがつかないことはない。


「同感です」


 蛍はすぐにうなずいたが、ウルスラは一層感心したようだ。


「太っ腹だねえ。それとも自信があるから余裕もあるのか?」


 一応たいていなら何とかなるだろうという自信はあるな。

 たぶんだけど蛍もそうなんだろう。


「ここは否定しないでおくか」


 と俺は悠然と答える。


「エースケと風連坂さんはそうだろうね」


 アインはまぶしそうに言った。

 彼はやっぱり劣等感みたいなものを持ってるのかな。


 大器晩成タイプのつらいところだが、あまりくよくよしているわけでもない。

 おかげでフォローに気を遣う必要がなくていい。


「アイン、わりきってんなぁ。あせったりはしないのかよ?」


 ウルスラの疑問は当然だと思う。

 だが、聞かれた本人は達観したように笑った。


「あわてたことはあったけど、今はもうあきらめたというか。自分のペースを守って成長していけばいいかな、なんて思えるね」


「ほへー」


 ウルスラはまじまじとアインをながめる。

 彼の精神力について見るべきものがあると気づいたらしい。


「アイン、じつはけっこうすごいやつだろ?」


 と俺が言うと、アインは「へっ?」と間が抜けた声を出す。

 だが、ウルスラは笑わずにこくりとうなずいた。


「あんたらが入れてるだけのことはあるって思ったよ」


 納得したようである。

 蛍はと言うと、とっくに気づいていたらしく今さら驚いたりはしなかった。


「そういうやつらなら、ボクも仲間に入れてもらいたいって思ったよ。お試しじゃなくて、正式にね」


 ウルスラは表情と姿勢を改めて告げる。


「申し込ませてほしい。ボクを仲間に入れてください」


「こちらこそよろしくな」


 俺は手を差し出して彼女と握手をかわす。

 次にアインと、最後に蛍と。


 そこまでいってはたと気づいた。

 これ、ゲームの時にウルスラが正式加入する時のシーンとほぼ同じじゃないか。


「ひゃー、まじめにやったら肩こったー」


 ウルスラは笑って両腕をグルグルと回す。

 思わず笑ってしまう。


「じゃあ今後改めてどうするか、一回話したほうがよくない?」


 とアインが提案してくる。


「歓迎会もするか?」


 俺は自分のアイデアを口にした。

 ウルスラも蛍と同様、一度正式に仲間になったら離脱はしない。


 ……離脱するルートは一応あったけど、あんなルートを実際に通る気はならないからノーカウントで。


「おっ、そんなことをしてくれんのか?」


 ウルスラはうれしそうにニカッと笑う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る