第87話「一緒に飯を食おう②」
「俺の推測だけど、蛍は世界一の剣士をめざしてるんじゃないか?」
「ええ、目標は高く持ちたいので」
蛍は謙遜して否定することなく、気負うこともなく自然体で認める。
「へー、そういうことかよ」
ウルスラは納得したとつぶやき、チキンを口の中に放り込む。
「せ、世界一、すごい目標なんだね」
アインは圧倒されていた。
弱気な彼には思いもよらない目標なんだろう。
蛍は彼にちらりと目を向けたものの、何も言わなかった。
それもまた彼女なりの気遣いなのだと俺は気づく。
「俺もどうせなら世界一の錬金術師をめざそうかなぁ」
それくらいをめざしてもいいというか、たぶん今のままだと自然と進んでいくことになる。
「エースケ殿ならそうおっしゃると思っておりました」
蛍はやわらかく微笑む。
うれしそうというよりは理解者の笑顔だった。
「エースケが言っても現実的なんだよね」
アインはうらやましそうに、自分自身のことで落ち込んでるような顔になる。
「アインはまだ自分の道が見つかってないだけだろ。何もあせる必要はない」
「う、うん」
アインはひとまずうなずく。
あせると言いつつ人の意見に聞く耳を持ったままなのが、こいつのいいところだった。
「冷静で大人な切り返しだなー。エースケと蛍はちょっと違う感じがあんな」
とウルスラは評価する。
「そうなんだよね」
アインが彼女に賛成した。
「蛍はともかく俺もなのか?」
首をかしげて自分を指さすと、アインとウルスラは同時に肯定する。
「そうだよ」
「むしろエースケが一番じゃないかな?」
あれ、そんな評価だったんだ?
思わず蛍に視線を向けると、彼女はにっこりする。
「エースケ殿はたしかに他の方とどこか違うと思いますよ」
「そうなのか」
心当たりはないどころか、思いっきりあるな。
前世が日本人でこの世界に酷似したゲームの知識を持ってるのは、おそらく俺くらいのものだろう。
他の人間と同じになるわけがない。
それはわかっていたが、他の人間にはけっこう感じられるものなんだな。
それだけ俺は異質ってことだろうか?
「もしかして気づいてなかったの?」
アインに聞かれる。
「んー、たぶん自覚はなかったかな」
自覚はしているが、他人の評価までは気が回ってなかったというのが正しい。
だがそれを言ってもきっと混乱させるだけだ。
勘の鋭い蛍なら何かに気づくかもしれないし。
「そうなのですね。意外……でもないですね」
蛍はそう言ってくすっと笑う。
「そうだね。エースケは意外とわきが甘いというか、見落としてたりするもんね」
アインは愉快そうに指摘する。
「ああ。以前も言われたっけか」
どうやら彼と蛍の二人にはそういう認識が固まってるらしい。
めんどうだし否定できないから、黙って肩をすくめておこう。
「へー、意外だなー。堅実な道を行く計算型ってイメージだったんだが」
ウルスラは目を丸くしてこっちをまじまじと見てる。
「がっかりさせたか?」
「いや、人間くさくて親しみが持てるよ」
ウルスラは白い歯を見せた。
「たしかにとっつきやすくはあるかもね」
とアインが言う。
「そこまで計算して……るわけじゃなさそうだな」
ウルスラは笑みを消して俺を観察し、すぐに自分の考えを打ち消す。
そこまで深く計算して実行できる器用さなんて、俺は持ち合わせてないからな。
そんなスキルがあったらもうちょっと楽に生きれただろうに。
「そこまで考えられる頭が欲しいよ」
「えっ?」
ため息をつきながら言うと、なぜかアインに変な顔をされた。
「ふーん」
ウルスラにはしげしげと見つめられる。
そんなおかしなことを言った覚えはないんだがな。
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