第85話「結果オーライ」

「ところであんたら何部? ダンジョン探索部? 戦略戦術愛好会?」


 何かをたしかめようとしてるようだが、どちらもハズレだ。


「錬成部と剣術部だな」


「んんん?」


 案の定、ウルスラは怪訝そうな声をあげる。


「あんたは錬成部だとして、もう一人サムライが剣術部なのもわかるとして、最後の一人……それも剣術部かい?」

 

 当然の疑問だ。 

 紙には錬金術師、戦士、サムライって構成だと書いてあるからな。


「いや、錬成部」


「んん?」


 もう一度ウルスラは変な声を出す。

 

「戦士なのに錬成部ってのがよくわからん……」


 困惑したつぶやきがぽろりともれる。

 本音を隠すのが下手なのはゲームの時と同じだった。


「昼休みに説明するさ」


「あ、うん」


 ウルスラはこくりとうなずくと気を取り直した顔で俺を見て、


「じゃあ昼休みにまた来るよ」


 右手をあげて去っていく。

 どことなく男っぽいキャラだった。


 教室に戻るとさっそくアインと蛍に聞かれる。


「もしかして応募してきたのかい?」


「ああ。ウルスラ・ノヴァクって女子でローグらしい」


「ローグか……」


 できれば魔法使いかヒーラーがいいとアインの顔に書いてあった。


「安定した実績ができればヒーラーは入ってくれやすくなるかもな」


 と俺は答える。

 ヒーラーはパーティーの生命線ではあるが、他のメンバーがしっかりしてないと危険が大きいジョブだ。

 

 前衛がしっかりしてないパーティーのヒーラーと書いて、一番死にやすいと読むなんて言われたりしたほどである。


「それはありえるかと。それがしたちがどれくらい頼りになるか、初見のヒーラーは判断しにくいでしょう」


 蛍は俺の意見を支持してくれたが、アインは納得できなかったらしい。


「ギンギラウルフを倒したってのは実績にならないのかな? そりゃ風連坂さん一人の力だけど、頼りになる人がいるって証明にはなるじゃない?」


 アインはシェラが書いた文面を読まなかったらしいな。


「ああ。それは書いてないぞ。そもそも俺、生徒会に報告してないだろ?」


「えっ? ……あ、本当だ!?」


 俺の発言を聞いてアインはまずきょとんとし、次に愕然とする。

 

「何かお考えがあってのことですか?」


 蛍が聞いてきた。

 彼女のほうはたずねるタイミングをうかがってたみたいだな。


「派手な実績を出すと人は集まってる来るだろうけど、審査が大変だろ」


 絶対合わないやつが混ざるだろうし、いちいち断るのもめんどうだ。


「断ったら逆恨みされるリスクも出てくるしな」


「よくわかりました」


 蛍はやけに実感がこもってそうな声を出す。

 彼女なら逆恨みされた経験があってもおかしくはないが……今は聞かないでおこう。


「そっか。そういうもんか」


 アインはようやく腑に落ちたようだ。


「単に情報を小出しにしていれば応募する人数も減る。誰もこないリスクもあったわけだが、結果オーライだ」


 さすがにいきなりウルスラが来るとは思ってなかった。

 この点は狙い通りじゃない。


「いい結果が出たんならそれでいいよね」


 とアインはにっこりする。

 

「まあノヴァクが俺たちと上手くやれるかは別の話だが」


 俺は一応くぎを刺すつもりで言った。

 大丈夫だと思いたいんだが、安心しすぎないほうがいいだろう。


「別に合わなかったらそれでもいいんじゃない?」


 なんてアインは言い放つ。

 ダメだったら他の人でいいと思うのは、ゲーム知識がないからだよな。


 ウルスラはアルバデル最高のローグだと知ってるのは俺だけだ。

 もちろん最終的な話で、一年段階だとたぶん三年のローグのほうが上だろうか。


「最初から突き放すはちょっとな」


「まずは仲良くなる努力をすべきでしょうね」


 俺と蛍がそう言えば、


「あれー?」


 アインは自分が悪いのかと首をかしげる。

 ちょっと面白い一幕だった。


「反省しような、アイン」


「う、うん」


 こういう時、アインは素直である。

 

「とりあえず昼休みに顔合わせをする予定だ。四人で飯を食おう」

 

 二人にはそう告げた。


「了解」


 とアインが応じ、


「待ち合わせ場所は教室前でいいのでしょうか?」


 蛍は確認する。


「ああ。ノヴァクから来てくれるようだ」


 そう答えた。

 ここで二人の性格の違いが出たな。

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