第二章

第82話「妥協できないライン」

 今後の作戦を練るためということで、俺たちは錬成部から学園の食堂に移動する。


「ローグ、ヒーラー、魔法使いあたりを探してパーティーを組んでもらえないか持ちかけてみよう」


 と俺は二人に提案する。


「それはいいけど、来てくれるかな?」


 アインが心配そうに疑問を言った。

 彼の心配は当然である。


 よく知らない一年が仲間を集めてると言われても、普通だと誰もこない可能性が高い。


 だが対応策は考えてある。


「ギンギラウルフのドロップアイテムを学園側に提示し、そのうえでメンバー募集の貼り紙を出させてもらえばいい。学園側公認となればみんな信じるさ」


 学園側に実績をアピールしつつ、それを事実だと認定してもらえるのは大きなメリットだ。


「なるほど、その手がありますね」


 蛍は感心してうんうんとうなずく。


「生徒会に相談するってのはどうだろう?」


 ふと思いついたようにアインが言った。


「まあどうせ生徒会には知られるしな」


 と応じる。

 学園に報告して掲示してもらうとしても、生徒に関することなのだから生徒会に知らされないってことはありえない。


 この辺はよくわからないけど、生徒会が書類を作成することもあるのかな?


「ロングフォード先輩なら、我々三人のことをそれなりにご存知でしょう。相性のよいメンバーがフリーでいるという情報をいただけたら最高ですね」


 蛍も賛成だった。

 たしかにシェラとパウルは俺たちが授業でダンジョンもぐってるところを巡回してるしな。


「よし、聞くだけ聞いてみようか」


 と答えた。

 フィーネならともかくシェラってこの段階で話しかけてもスルーされる。


 それがゲームの時の認識だが、どう考えても違ってきてるもんな。

 あんな話しやすくて気さくなキャラじゃなかったぞ。


 この変化がプラスに働いてくれるならいいんだが。


 トレーとカップを返却棚に戻す。


「生徒会室と事務室、どっちから先に行く?」


 とアインが食堂の出口でたずねる。


「生徒会室でいいかな。先輩たちが知ってるなら、貼り紙を掲示してもらう必要がなくなるし」


 この段階でギンギラウルフを一年が倒したっていう情報は、刺激的すぎるおそれはあった。


 公開しなくてもいいならそのほうがいい気もしている。


「もっとも先輩たちが相手を知ってるとして、そいつが俺たちと組んでくれるかはわからないわけだが……」


「あ、そうだね」


 どうやらアインは気づいてなかったらしい。

 根がお人よしというか、悪い方向への想像力はあんまり働かないやつだ。


 蛍のほうは当然気づいてたという顔で平然としている。

 

「はた目からは蛍の強さに頼りっきりのいびつなパーティーにしか見えないだろうから、そこをどうするかだな」


 プレゼンテーションを頑張らないとダメかな?


「そんな印象がすべてと思うような輩は、断ったほうがよいと思いますが」


 蛍はひかえめにだがしっかり主張する。


「そういうやつは自分で断ってくるだろうから平気だろうさ」


 そんな彼女に笑って答えた。

 俺だって蛍しか見えないようなやつとは組めない。


 現段階だと無理難題だってわかっているつもりだが、妥協できないラインというものはあるのだ。


「だよね」


 心配はいらない。

 必要とすれば蛍が引き抜かれないかということだが、義理堅い彼女が出ていくとは思えなかった。


 怒らせたり失望されたりすれば別だが。


「俺は何となく決めてるけど、二人に希望はあるのか?」


 と水を向けてみる。

 何となく俺がすべて決めるような空気になってるが、この二人の意見も考慮するべきだろう。


「仲良くやれそうな人なら誰でもいいよ」


 と言ったのはアインだった。

 ある意味一番困る意見だが、希望として出るのはわからんでもない。


「蛍は?」


「エースケ殿のお考えに異存はございません」


 蛍からはもっと困る意見が来た。

 

「ただ急がずともよいと考えております。それがしのためを想って動いてらっしゃるのに心苦しいですが」


 彼女は眉間にしわを作る。

 俺の好意を無下にしているように感じてるらしい。


「いや、蛍が申し訳なく思うことなんてないだろ」


 と否定する。

 蛍のためであるのは事実だが、彼女のためだけじゃないんだから。


 俺の声なき意見は彼女に伝わったらしく、恐縮する。


「申し訳ありません」


「謝らなくていいよ。俺の説明が下手なんだろ」


 と受け流す。


「何か相手のことを考えすぎて、一周回って齟齬が生まれてる感じだね」


 アインがそう指摘する。

 

「言われてみればそうかもしれない」


 俺はハッとなった。


「遠慮しすぎても上手くいかない……盲点でした」


 蛍も似た顔だった。

 二人で視線をかわし合い、同時に照れ笑いになる。

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