第79話「手を貸してもらうのも立派な能力」

 錬成部に戻って先輩たちに報告する。


「へえ、すごい売り上げじゃないか」


 エドワードは目を丸くした。


「両家の力もだけど、まず商品ありきよね。おめでとう、シジマくん」


 リプレは手を叩いて祝ってくれる。


「ありがとうございます、でいいんですかね?」


 俺は首をひねったが、みんなは笑う。


「いいんじゃないか? 錬金術としては小さくない一歩だろう」


「ええ。まさか売れるボードゲームを作るなんてね。錬金術師というジョブへの見方が変わりそう」


 先輩たちの手放しの賞賛を聞いてると、何かを成し遂げたような気になってくるな。


 錯覚しないように注意しないといけない。

 何せ大きなメインストーリーはまだ序盤にすぎないんだから。


「変えるのはこれからですよ」


 と言ってみる。

 案の定先輩たちは唖然とした。


 アインもポカーンとしたが、蛍だけは拍手してくれる。


「……今のはジョークだよ?」


 真に受けたっぽい蛍にくぎを刺しておく。


「だよねえ」


 先輩たちは安堵したように笑うが、蛍とアインは違う。


「ジョークに聞こえなかったよ」


 アインはぎこちない表情で指摘し、


「新たなる決意表明かと思いました」


 蛍は勘違いしていたことを告白する。


「その意思はあるけど、具体的なビジョンはまだ持ってない」


 あいまいなアイデアだけならいくつもあるが、実現できるかというとどうなんだろうな。


 カードゲームの類はたしかこっちの世界にも存在していたはずだ。


「そう新しいアイデアなんて出てこないだろ」


「あせることないわよ」


 先輩たちは面白そうに笑った。

 彼らの価値観すれば当然の反応である。


 むしろ期待して肯定してくれてる蛍の心理のほうがわからない。


「しっかしギンギラウルフをもう倒しちゃったのか。あれは本来草の月あたりに勝てるようになるもんだぜ」


 とエドワードが言う。

 草の月とは六月のことで、要するに二か月ほど想定より早いってわけだ。


「すごいのはシジマくんだけじゃないわよね」


 リプレがため息をつき、蛍のほうを見る。

 彼女の力なしじゃ実現できないって、誰でもわかることだしな。


 蛍は無言で一礼しただけで先輩からの賞賛を受け止める。

 彼女にとっては大した相手じゃなかったんだろうな。


「まあ俺たちの今の戦果は蛍の存在ありきですから」


 はっきり口に出して認めるのは、彼女に対する誠意のようなものだ。

 

「それがし一人だけの力というのはいかがでしょうか?」


 当の本人には不満そうな顔をされるが。


「風連坂さん、何でいやがるの?」


 アインは不思議そうに首をかしげる。

 これは先輩たちも同様だった。


「そりゃシジマの力もあるだろうが、ギンギラウルフを倒せたのは君の功績が大きいと思うんだが?」


 エドワードが怪訝そうに話しかける。

 蛍の瞳は「違う、そうじゃない」と訴えていた。


 だが、言葉には出さなかった。

 理解されないと思っているからだろうか。


 一瞬すがるような瞳がこっちに向けられる。

 オモチャを持ってきた子犬が遊んでもらえるのかと不安がっているような、そんな時の顔をともなって。


「自分が力を貸してる人がどういう人なのか、そこを考えろとでも言いたそうだな」


「い、いえ、そこまで強いことは!」


 蛍はあわてて否定したものの、俺が理解してくれた喜びに満ちあふれた視線をよこす。


 尻尾があれば全力でふってるシーンなんだろうな、これ。


「たしかにね。手を貸してもらえるのも立派な能力だし、シジマくんはそれが優れてると言えるね。ひゃひゃ」


 いつの間にか来ていたウィガンがそう評価する。

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