第78話 買うより作るほうがいい場合もある

 学園の外に出て銀行をまっすぐ目指すと、途中で二年生や三年生を見かける。

 一年はまだ外に出る用事があるやつは少ないからかな。


 銀行に行って二人を待たせて振り込み金額を確認する。

 

「フィラー金貨二枚ですが、引き出しますか?」


 受付窓口で応対してくれたお姉さんがにこやかに問いかけてくるが、俺は言葉に詰まってしまった。


 あれ? 俺の取り分ってたしか一割だったよな?

 フィラー金貨二十枚分も売れたってことか?


 二千万円相当の売り上げがこんな短い期間で生まれてるとはな。

 もしかして学園の外の世界だと、わりととんでもないことになっちゃっているんじゃ……?


「あ、引き出すのはいいです。管理をお願いします」


 ぎこちなく言うと、


「かしこまりました」


 にこやかな返答が来る。

 残高確認をしにきただけだと判断されたのだろう。


 そういう人はけっして珍しくはない。


「せっかく外に来たんだし、どっか寄っていくか?」


 と銀行の外に出たところで二人に聞いてみる。


「別にいいんじゃない?」


 なんてアインは言う。


「それに僕、手持ちにあんまりお金がないんだよね」


 と続いた。


「素材を売ったお金、お前に分け前はいってるはずだが」


 俺はそう聞いてみる。

 取り分は基本三人で山分けだ。


 本当なら蛍には護衛料金を別途支払う必要があるんだろうが、上級道具袋で支払い済みである。


「うん、でも余裕はなくて」


 アインは力のない笑みを浮かべた。

 理由を詳しく説明する気はないってことか。


 病弱な妹がいるので親に負担をかけたくないパターンかな?


「そうか。何かあれば相談してみろよ。俺たち友達だろ?」


「うん、ありがとう」


 ひとまず話は終わりだ。

 フィラー金貨がけっこう貯まってきたので、装備のグレードアップを考えるのもアリだな。


「蛍、何か装備いらないか?」


「それがしですか?」


 突然の質問だったからか、蛍に聞き返される。


「今のところ特に必要は感じませんね」


 だろうなと思う。

 かすり傷一つ負ったことないし、刀で斬れないモンスターもいない。


 風光一刀流は魔法効果を付加するような技を使えるので、いろいろな種類の刀が必要になったりもしない。


 ゲームの時だと丈夫さと切れ味を追求していく感じだったな。

 ある意味最もコスパがいい仲間だった。


 もっとも防具などは必要だったが。


「じゃあ俺とアインの防具を買おうかな」


「え、この間買ったのに?」


 とアインが驚きをあらわにする。


「買えるなら買ったほうが絶対いいだろ。俺たちはまだ装備のよさに左右される強さだし」


 一応強くなれば装備が弱くても問題ないという状況は多くなる。

 蛍のように。


 だが、俺たちは該当しない。


「うん……」


 アインはためらっている。

 ここで遠慮なくたかってこないのがこいつの長所なんだが、さてどうしたものか。


「別に無理強いしなくてもよいのでは? ゴリアテ殿としても、返済のあてもなしに借金だけ増えていく状況は避けたいでしょう」


 なんて思ってたら蛍がそう口を出してくる。


「なるほど、そのとおりだな」


 彼女のたとえは俺にとって実にわかりやすかった。

 返せるかわからないのに借金を増やすのは、俺にしてみれば自殺行為でしかない。


 そんなものアインにやらせるのは失敗だな。


「そこまで気が回らなくてごめんな、アイン」


「……いや、たぶんそうなんじゃないかと思っていたから」


 アインは許してくれた。

 許されたと言うよりは気づいてたから問題ないって感じか。

 

 借金漬けにして言いなりにするつもりか、なんて勘繰られなくてよかった。 


「じゃあ俺だけでも装備をアップするよ。ポーションの材料も買わなきゃ」


 お金に余裕がないなら自分で採取するが、これだけあるなら材料を買って錬成しまくったほうが絶対に効率がいい。

 

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