第2話 回想(1)

記憶の糸を手繰り寄せると、

人の顔色をうかがう幼い自分がそこにいる。


明確な理由は分からない。

否、

分からない方がいいのかもしれない。

そこには、

暴力や暴言という現実が待っているから。


幼少期から、

暴力が身近にあるのが当たり前だった。


子どもというものは、

沢山の失敗をするし、

親に手間をかけさせてしまうのは当然の事なのかもしれない。


しかし、

母には幼い子どもを思いやる余裕がなかった。

元々メンタルが弱い母。

年子の姉妹を育てることで手一杯なのに、

父は育児に非協力的だった。


母は大きなストレスを抱え込み、

子どもたちに当たり散らした。

妹よりも内気な性格の私は、

怒られることを異常なほどに恐れていた。


怒られて、

殴られるのは嫌だ。

痛い思いはしたくない。


気がつくと私は、

大人の顔色をうかがいながら、

良い子であるように、

その人の望む理想の子どもであるように振舞うことが当たり前になっていた。


自分の意志や気持ちなんて、

どうなってもよかった。

ただ、

怒られて殴られることが怖かった。

暴力や暴言から逃げたい。

その一心で、

良い子を演じ続けた。

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